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【万能指示薬】pH試験紙の科学③【ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式】

本日も、りけいのりがお届けします。

 

皆さんは、身の回りにある"色"と"物質"の関係について、どの程度知っていますか?

  • 染料と顔料は水への溶解性が異なる
  • 物質の色は、光源からの光の一部が吸収されることで生じる
  • 物質による光の吸収は、化学構造に依存する
  • あまり意識したことがない

"色の成り立ち"を理解することは、物理学・化学に対するかなりの教養が求められるんです。ですから、"空は何故青いのか"とか、"虹は何故七色なのか"という疑問に真摯に答えようとすると、大学レベルの物理、化学理論が登場します。

 

しかし、"かいつまんでお伝えするのであれば"、色に関する科学を短時間で理解することも可能です。そこで、テーマを"指示薬"に絞ることで(かいつまむことで)、次のことを目指します。

pHの重要性を理解し、pHの簡便な測定指示薬である万能指示薬に詳しくなる。

 

目的達成のため、今までに以下のような道のりを歩んできました。

 

  1. pHのざっくりとした概念をつかみ、酸解離平衡を理解する
  2. pHの厳密な定義を理解し、ルシャトリエの原理を知る。
  3. ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式の概略を知る。(本記事)
  4. pH試験紙に使われる指示薬を知り、試験紙とは何か、分かるようになる。

前回は、化学平衡とルシャトリエの原理について学びました。

 

今回は、さらに進んで、pHの変化による物質の組成変化を示すヘンダーソン・ハッセルバルヒの式についてお話します。

 

それでは、水素イオン濃度の与える化合物のダイナミズムを紹介します。

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ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式

ヘンダーソンとハッセルバルヒ

ヘンダーソン・ハッセルバルヒ。初めて聞く人にとっては馴染みの無い名前ですね。

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式 (Henderson-Hasselbalch Equation)

The Henderson–Hasselbalch equation was developed independently by the American biological chemist L. J. Henderson and the Swedish physiologist K. A. Hasselbalch, for relating the pH to the bicarbonate buffer system of the blood (see below).

引用: *1

ヘンデルセン・発せるバッハの式は、アメリカの生化学者である L. J. Henderson とスウェーデン生理学者であるK. A. Hasselbalchが独立に提案した方程式で、血液における重炭酸緩衝液に対するpHの影響を考える際に役立ちます。独立に提案されたので、長い名前の方程式になっているのです。

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を導出する

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を導出します。導出のスタートは、酸解離定数の式(I)からです。(※対数関数の演算ができることを前提としています)

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酸解離定数の式に対して対数を取り、×-1をする

酸解離定数の式(I)の両辺に対して、10を底とする常用対数を取ります。続いて、両辺に×-1を行います。

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pKaの定義を行い、pHの定義式を代入することで(VI)式を得る

ここで、pHと類似して、Kaの10を底とする常用対数値に×-1した値をpKaと定義します(IV)。対数の性質を活用することで式を整理します(V)。最後に、pHの定義式を代入することで、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を得ました(VI)。

ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を応用する

次のフェーズとして、pKaの持つ意味を考えてみましょう。対数の性質より、次の式が成り立ちます。

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pKaのもつ意味

単純なプロトン解離平衡においては、プロトン解離型の分子とプロトン結合型の分子が1:1の割合で存在するようなpHがpKaということになります。酸解離平衡のpH依存性を考える上で、pKaは重要な指標であると言えます。以上のような、化学種の組成を明らかにするプロセスを"スペシエーション解析"といいます。

 

特に、プロトン解離によって分子の性質が変化するような場合、スペシエーション解析は重要になります。スペシエーション解析が重要な例として、次の分野が考えられます。

  • 有機化学: 化学種の帯電状態をpHにより制御する。
  • 環境毒性学: スペシエーションに応じて環境汚染物質の毒性は変化する。
  • 分析化学: 化学種の色がpHに応じて変化する。

言わずもがな、最後に示した分析化学の例こそが、万能指示薬を理解する上で重要なポイントとなります。

色と共役長

最後に、天下り式ではありますが、色と構造の関係についてお話します。一般的に、我々が感知できる色は、特定の化学構造に起因しています。その一つが、共役系です。共役系に関しては、以下の記事にて解説しています。

ここで、有色の化合物において、"共役系の長さが変化すると、化合物の色が変化する"ということが大切です

 

通常、水素イオンが解離することで、共役系を有する分子の共役長は変化します

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フェノールレッドのプロトン解離による変色(黄→赤)

このように、プロトン解離やプロトン結合が、指示薬の変色に関係するのです。

おわりに

いかがでしたか? 酸解離定数から導かれるヘンダーソン・ハッセルバルヒの式と、pKaの持つ意味について少しでも理解が深まれば幸いです。最後には、分子の構造が色と密接に関係していることをお話しました。特に、水素イオンの授受によって化合物の色が変化することは、pH試験紙において特に重要なポイントとなります

 

次回は、万能指示薬に用いられる指示薬を概観し、スペシエーション解析を通して万能指示薬の仕組みに迫ります。以上、りけいのりがお届けしました。

参考文献

 

*1:

N.V. BHAGAVAN, CHAPTER 1 - Water, Acids, Bases, and Buffers, Editor(s): N.V. BHAGAVAN, Medical Biochemistry (Fourth Edition), Academic Press,
2002, Pages 1-16.

https://doi.org/10.1016/B978-012095440-7/50003-2.