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【万能指示薬】pH試験紙の科学②【化学平衡】

本日も、りけいのりがお届けします。

 

皆さんは、身の回りにある"色"について、どの程度意識したことがありますか?

  • 色は色素に由来する
  • 色は光源の種類により変化する
  • 色により対象物への印象が変化する

文字通り、色々な考えがあるかと思います。我々の世界の一側面は、色によって形作られていると言えます。以上のような、身近な色を用いてサンプルから情報を引き出す試薬を"指示薬"といいます。

 

指示薬の原理を理解することは、化学的な世界観を共有することに等しいです。そこで、本連載では次のことを目指します。

pHの重要性を理解し、pHの簡便な測定指示薬である万能指示薬に詳しくなる。

pHとは対象物に含まれる水素イオン濃度の指標であり、感覚としては"酸っぱさ"の程度に対応します。また、pHは工業や生命現象など、ありとあらゆるところで重要になる指標でもあります。そこで、pHを簡便に知ることが出来る"万能指示薬"は、大発明だといえるでしょう。

 

万能指示薬の作用原理を理解するための道しるべは次の通りです。

  1. pHのざっくりとした概念をつかみ、酸解離平衡を理解する
  2. pHの厳密な定義を理解し、ルシャトリエの原理を知る。(本記事)
  3. ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式の概略を知る。
  4. pH試験紙に使われる指示薬を知り、試験紙とは何か、分かるようになる。

前回は、pHの概念や酸解離平衡について学びました。

www.rek2u.com

今回は、一歩進んで、pHの厳密な定義を理解し、ルシャトリエの原理という化学における基礎知識も学びます。

 

それでは、普遍的な化学の美しい世界にご案内しましょう。

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pHの厳密な定義

前回の記事では、極めて曖昧なpHの説明を致しました。定性的な説明は、直観的な理解を助ける一方で、数学的に扱うことを難しくしてしまいます。そこで、pHの厳密な定義について確認してみましょう。

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pHは水素イオン濃度の対数関数表示により定義される

ここで登場するのが、高校数学にて登場する、対数関数 (特に10を底とする常用対数)、あるいは指数関数です。pHの直接的な表現としては対数表示の方が分かりやすいですが、慣れていない方にとっては指数関数表示の方が分かりやすいかと思います。

 

ニュースや会社、はたまた日常会話にて"指数関数的な増大"など使うことが多いであろうこの関数。比ゆ的には、"鼠算に増大する"などと言われたりもします。実際に数字を入れてみると、指数関数のイメージがつかめます。

  • pH 1: [H+]=10^-1=0.1
  • pH 2: [H+]=10^-2=0.01
  • pH 5: [H+]=10^-5=0.00001
  • pH 14: [H+]=10^-14=0.00000000000001

このように、pHが"1"増えるに伴って、10^-1(=0.1)がかかるので、急激に水素イオン濃度は小さくなります。普通、自然界におけるpHは1~14に収まります。これを我々が普段扱う数で表そうとすると、14桁も異なる数字を扱うことになるので、扱いが大変です。そこで、対数関数の力を借りることで、系の水素イオン濃度を示す指標、すなわちpHの導入を行うのです。

(ここでは、対数関数の説明は行いませんので、他のテキスト等をご覧ください)

化学平衡とルシャトリエの原理

pHの厳密な定義を導入したところで、次の話題に移ります。化学平衡とルシャトリエの原理についてです。前回の記事では、酸から水素イオンが解離するような酸解離平衡について学びました。一般に、化学種の状態や組成変化を伴う動的平衡状態を化学平衡(Chemical Equilibrium)といいます。酸解離平衡の他にも、次のような化学平衡が存在します。

  • 気液平衡:気体と液体の間で生ずる平衡
  • 固液平衡:固体と液体の間で生ずる平衡
  • 溶解平衡:溶質の析出と溶解過程で生ずる平衡

この世の中の至る所で平衡状態が生じては崩れています。ここで、平衡状態には次のような性質があります。

ルシャトリエの原理(文献によっては法則)

平衡系に平衡を乱すような妨害が生じたとき、その影響を減少させる方向に反応は進行する。

引用: *1

 非常に直観的な原理です。前回も例に出た酸解離平衡を例に考えてみましょう。

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酸解離平衡を例としたルシャトリエの原理

例えば、酸解離平衡の成り立つ系に水素イオン(酸)を添加したとします。すると、水素イオン濃度増大の効果をかき消すような変化が起こるので(ルシャトリエの原理)、HAの生成を伴います。一方、HAを添加するとHA濃度の効果をかき消すような変化が起こるので(ルシャトリエの原理)、H+およびA-の生成を伴います。

 

このように、化学平衡の成り立つ系に対して変化が生じた場合に、系がどの様に変化するのか指標を与えてくれるのがルシャトリエの原理となります。ルシャトリエの原理は、非常に奥深い理論、特に化学熱力学に裏打ちされていて、信頼に足るものです。

 

変化というのは、物質の組成のみならず加熱・吸熱、加圧・減圧など様々な変化を指します。電磁気におけるレンツの法則のようなツンデレさを感じさせてくれます

おわりに

ミクロな世界で成り立つ、ダイナミックな変化。マクロな視点で分かる、平衡の性質。相反するスケールにおいて、化学平衡は様々な顔を見せてくれることを学びました。今回、厳密なpHの定義を学び、酸解離平衡が"ルシャトリエの原理"に従うことを学んだ今、pH試験紙の本質に迫る準備が出来ました。

 

次回、"pH試験紙の科学"最終回をお届けします。以上、りけいのりがお届けしました。

参考文献

*1:

E.F. Neuzil (1968), Introduction to Modern Chemistry, Harcourt, Brace&World, Inc., New York, U.S.A., 訳: 和田悟朗 (1970), 教養の化学 第1版 第27刷, 株式会社 東京化学同人, 218.