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【万能指示薬】pH試験紙の科学①【pHと酸解離定数】

本日も、りけいのりがお届けします。

 

皆さんは、中学理科で登場する"pH"について、どれくらいのことを知っていますか?

  • リトマス試験紙が真っ先に思い浮かぶ(青でアルカリ性、赤で酸性)
  • pHが小さいほど酸っぱくて、pHが大きいほど苦い
  • 水素イオン濃度を示す指標である
  • 生理学、農学、化学、、様々な分野において重要な値

学んできたことや原体験によって、pHに対する考えは様々です。

 

本記事では、次のことを目指します。

pHの重要性を理解し、pHの簡便な測定指示薬である万能指示薬に詳しくなる。

一方で、万能指示薬の原理をしっかりと理解するためには、一定程度の化学に関する素養を必要とすることも事実です。ここでは、水分子は"H2Oの化学式で表せる"ということを知っている方であれば、万能指示薬の原理を理解できるようにコンテンツを組み立てました。ご安心ください。

 

化学初心者から万能指示薬までの道しるべは次の通りです。

  1. pHのざっくりとした概念をつかみ、酸解離平衡を理解する(本記事)
  2. pHの厳密な定義を理解し、ルシャトリエの原理を知る。
  3. ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式の概略を知る。
  4. pH試験紙に使われる指示薬を知り、試験紙とは何か、分かるようになる。

実は身近で、そしてダイナミックな化学の世界にご案内しましょう。

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pHって何だろう。水素イオンで何だろう。

まずはじめに、pHとは何か、確認しましょう。

pH: 水素イオン指数: potential of hydrogen

溶液中の水素イオン濃度を示す指標。値が小さいほど酸性、値が大きいほど塩基性になる。

読み方: ピーエイチ、ペーハー (ドイツ読み)

非常にざっくりと言ってしまえば、pHは酸っぱさの程度ということになります。酸っぱさの鍵を握るのは"水素イオン"であり、水素 (Hydrogen)イオンがどの程度含まれているか示す (潜在: Potential) ので、pHです。

 

余談ですが、水素イオンは通常プロトン(Proton)といいます。原子核物理学などでは、プロトンは陽子を意味します。なぜ水素イオンは"Hydrogen Ion"ではなく、プロトンと呼称するのでしょうか。これには、水の電離が関係しています。

水素イオンをプロトンと呼ぶわけ。

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水は水素と酸素により構成されており、かつ解離平衡状態にある。

上図に、水分子の模式的な表現を示しました。我々の地球を覆っている水は、水素と酸素という元素で構成される分子です。 水分子は2つの水素と1つの酸素により構成された折れ線型の分子(H2O)で、水素結合という特殊な結合を分子間で形成しているのが特徴です。

 

通常、水分子のほとんどはH2Oとして存在します。しかし、ごく一部の水分子は、水酸化物イオンと呼ばれる陰イオン、水素イオンと呼ばれる陽イオンに解離する挙動を示します。また、水酸化物イオンと水素イオンが出会うことで、水分子になるという反応も起こります。全水分子に対して一定数の水分子は、以上のような解離と結合を絶え間なく繰り返します。特に、温度一定の条件では、水分子と水素イオン(あるいは水酸化物イオン)の割合が定まります。このような状態を解離平衡といいます。化学で扱う平衡状態とは、静的ではなく動的です。

 

ここで、水素イオンに着目してみましょう。

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水素イオンの本質は陽子である。

水の解離における水素原子に着目しましょう。水素原子は、水分子中を構成する場合には電気的に中性でした。一方、解離が起こることで、正に帯電した水素イオン(陽イオン)が発生します。

 

この時、(古典力学的に)原子を捉えると上図のように陽子と電子が一対で存在している状態をとります。一方、水の解離に伴い水酸化物イオンが生じることで水素原子に帰属される電子は陽子を離れます。結果、解離により残る水素イオンは、陽子(英: プロトン)と同等の構造を持つのです。これが、水素イオンをプロトンと呼称する由来です。

 

しかし、実際問題、陽子として水素イオンが存在することはまずありません。何故ならば、水中では水分子がひしめき合っており、互いに相互作用を繰り返すからです。特に、電荷が+の陽子が存在することは(電荷の局在により)極めて不安定です。よって、水分子による電気的な中和を受けることで、ヒドロニウムイオン(陽イオン)を形成するなどして安定化されます。

 

脇道に逸れまくりましたが、以上のお話で重要なキーワードが出てきました。解離平衡です解離平衡の基本について、次節でお話します

 

酸解離平衡の定常性

水が水酸化物イオンと水素イオンに解離するように、多くの分子は解離性を示します。特に、水素イオンは酸っぱさの原因である(厳密には、水素イオンを放出する物質を酸とする)ことから、水素イオンを解離する平衡を、酸解離平衡といいます。

 

一般的に、酸解離平衡を表してみましょう。

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酸解離平衡の一般的な表現と酸解離定数

以上のように、一定の割合で酸は水素イオンを放出する酸解離を生じます。また、水素イオンとA-(共役塩基という)は一定の確率で出会って酸を生じます。ここで、前節のフレーズを思い出してください。

特に、温度一定の条件では、水分子と水素イオン(あるいは水酸化物イオン)の割合が定まります。このような状態を解離平衡といいます。化学で扱う平衡状態とは、静的ではなく動的です。

酸と水素イオンの割合は温度一定の条件で、一意に定まるということです。よって、酸解離を生じる分子に固有な定数が導入できます。それが、酸解離定数(Ka)です。化学では、角確固 "[]"で化学種を囲むことで、その化学種の濃度を表現します。よって、Kaの等式は、酸と水素イオン(と共役塩基A-の積)の濃度の比を示しています。

 

話が込み入ってきたのでまとめます。

  • 多くの酸は水素イオンを放出したり受け取ったりしている。
  • ある温度において、解離平衡式の左辺と右辺のバランスが保たれる状態が存在する(酸解離平衡)
  • 酸解離平衡は、酸解離定数により表現できる。

 以上の内容が理解できていればバッチリです。

おわりに

今回は、pHのざっくりとした説明水素イオンのよもやま話、そして酸解離平衡についてお話しました。

我々の体の約60%は水です。水風船が地球上を闊歩している世界線に我々は生きていると言えます。そして、分子レベルで物事を見てみると、そこには水分子のダイナミックな平衡が存在するのでした。よく考えてみると、ものすごいドラマが繰り広げられています。

次回は、酸解離平衡の議論を土台に、ルシャトリエの原理という化学徒なら誰もがニンマリするお話をいたします。以上、化学系学科出身の、りけいのりがお届けしました。

参考文献