本日も、りけいのりがお届けします。
今回は、(一部の理系にとっては言わずと知れた)大物理化学者、サヴァント・アレニウスに関するお話です。
アレニウスといえば、
- アレニウスの式:化学反応の速度と温度の関係式
- アレニウス効果:α毒素の残存に関する効果
など、様々なところに名前を残している、スウェーデンの物理化学者です。実は、温室効果ガスと地球温暖化という概念も、彼が最初に提唱しています。
彼は、一体どのような人生を歩んだのでしょうか。
【神童】サヴァント・アレニウスの誕生
まずは、アレニウスの略歴です。
国籍はスウェーデンで、専門は化学および物理学としています。1903年に、ノーベル化学賞も受賞しています1)。
彼の人生は、スウェーデンのウプサラ近郊、Vikという町で生まれます。
湖に面した、非常に小さな町であることが分かります。
ウプサラ大学の測量技師を務める父親の息子として誕生しました。中でも、次のような振動エピソードがあります、
(世界の偉人館、アレニウス2))
- 3歳:独学で文字を読めるように。父親をまねて、算術ができるように。
- 学校に入学するやいなや、5年生に飛び級。物理学や数学で優れた才能を発揮。
恐ろしきアレニウス。3歳までに、どの様な教育を受けていたのか非常に気になります。
その後の略歴は次の通りです。
- 名門、ウプラサ聖堂学校に入学
- 1878年、学位取得:ウプサラ大学
- 1884年、博士号取得:ウプサラ大学
- 1884年、ウプサラ大学にて名誉取得
- 1886年、スウェーデン王立科学協会から旅費手当を受給し、様々な研究室に滞在 (ポスドク)
- ウィルヘルム・オストワルトの研究室 (ラトビアのリガ大学、ドイツのライプツィヒ大学)
- フロイントリッヒ・コールラウシュの研究室 (ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク)
- ルートヴィッヒ・ボルツマンの研究室 (オーストリアのグラーツ大学)
- ヤコブ・ヘンリクス・ファントホッフの研究室 (オランダ、アムステルダム大学)
(Elisabeth Crawford (2020), 1))
以上から、理系大学生であれば必ずや耳にしたことのある大科学者の基で、科学者としてのキャリアを積んでいったことが分かります。非常にうらやましいですね。
その後、彼は次の機関に所属しました1)。
重要なのは、アレニウスが物理化学という学問の立役者であるということです。彼は、溶液中での電解質の挙動について、電離説を提唱しました。
電離というこの現象は、静電気的な考察 (物理学) と化学的な考察に基づくことから、物理化学という学問領域の範疇となります。
この他にも、"アレニウスの式"を提唱したとして、彼の名前は今後も語り継がれていくことでしょう。しかし、この"アレニウスの式"の根幹概念は、既にファントホッフが提唱していたとされています4)。つまり、化学反応の温度依存性に関する式は、ファントホッフの式と呼ばれていたかもしれません。しかし、浸透圧に関するファントホッフの式、化学平衡定数に関するファントホッフの式と、ファントホッフは既に多くの業績を挙げています。
アレニウスの式を提唱していた論文が投稿された学会誌がオストワルトの傘下にあり、アレニウスの師としてファントホッフがいたことを鑑みると、色々な人間関係が見えてきます。
りけいのりとしては、アレニウスが先生方に可愛がられていたのではないか、と考えております。
その人生
最前線に立つ科学者として、分野にとらわれることなく活躍したアレニウス。彼の科学に対するアグレッシブさは、電気化学に限りません。
例えば、彼は初めて、二酸化炭素のような温室効果ガスと地球温暖化の関係について予想をしていました5)。地球温暖化とは、太陽光線の内の赤外光が温室効果ガスの分子振動を促進することで発生する、地球表面の気温上昇現象です。地球という宇宙に浮かぶ惑星を温室ととらえた、少しオシャレな表現です。
勿論、そのモデルには大きな修正が必要となったのですが、100年前から地球温暖化について予言していたことに、大きな価値があります。
また、微生物学においても大きな貢献をしています。アレニウスは、アレニウス効果という現象を発見しています。
耐熱性とは、耐熱性溶血毒 (Thermostable Direct Hemolysin)に代表される、加熱に対して失活しないような性質。
60℃の加熱により毒素は失活し、さらに高温で加熱処理を行った後に毒素活性が残存するという、耐熱性に関する現象。→アレニウス効果
(Spring8, 6))
アレニウス効果は、現在、タンパク質のフォールド・アンフォールドの観点から、原子レベルで明らかになっています5)。
おわりに
非常に幅広い分野で功績を挙げたサヴァント・アレニウス。彼の科学に与えた影響は計り知れません。
しかし、ここで真に特筆すべきは、彼の飽くなき知的好奇心ではないでしょうか。物理学、化学、微生物学と、彼は学問の枠にとらわれず、多くの問題に取り組みました。揺るぎないその探求心は、地球温暖化という未来を見通すに至っています。
今回の記事では、サヴァント・アレニウスの人生と業績についてお伝えしました。
アレニウスの名を冠した、アレニウスの式については以下の記事にて解説しているので、参考にしてみて下さい。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1)Elisabeth Crawford (2020), Svante Arrhenius, Swedish chemist, Britannica, Accessed: 2020/10/23.
2) 世界の偉人館、アレニウス、Accessed: 2020/10/23.
3) ブルーバックス編集部 (2020)、2月19日 スウェーデンの化学者アレニウス誕生(1859年)、Accessed: 2020/10/23.
4) 小岩昌宏 (2000), アレニウスと反応速度論 -伝記に見るその人物像-, まてりあ, 39, 1.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1994/39/1/39_1_58/_pdf
5) 合同会社ワライト (2018), 地球温暖化を最初に訴えた科学者はアレニウス, Accessed: 2020/10/23.
6) Spring8 (2010), 食中毒原因菌の腸炎ビブリオの毒性は加熱してもなぜ消えないのか? - 腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒(TDH)の構造解明 -(トピック)、Spring 8、Accessed: 2020/10/23.