本日も、りけいのりがお届けします。
突然ですが、皆さんは仕事や勉強を行う上で大切な、モチベーションや集中力について考えたことがありますか? 日曜日の夕方に憂鬱な気持ちになる"ブルーマンデー"(通称: サザエさん症候群)や、身辺の環境変化による大きなストレスから憂鬱になる"五月病"などなど、心理の与える"行動"への影響は、非常に大きいです。
20世紀の心理学者は、モチベーションや、作業への集中力に対して大きな関心を示し、様々な研究を行ってきました。ここでは、現代の心理学では常識となりつつあるが、一方で一般にはあまり知られていない心理学的な知識をお届けします。
"知識を知るだけでは、その根底に横たわる本質を理解することは出来ない"と、こんな声が聞こえてきます。ごもっともな意見です。しかし、本記事の目的は"心理学の本質"を理解することではありません。
本記事の真の目的は、自分の行動や心の動きを客観的に捉えなおすことです。我々の日々の行動を"心理学的知識"によりラベルすることで、客観的に自分を見つめることが出来るようになります。
オーストリアの哲学者で、論理哲学論考の著者であるL.ウィトゲンシュタインの言葉を引用します。
思考は命題において知覚可能な形で表される。われわれは、可能な状況を射影するものとして、命題という知覚可能な記号 (音声記号、文字記号、等々)を用いる。*1
砕いた説明をすると、我々が考えるためには、まず知覚可能な記号として、例えば言葉を与える必要があります (今回の記事での心理学的知識)。言葉を知ることで、初めて考えることが出来るようになるのです。
少し脇道に逸れました。今回は、フロー理論、アンダーマインド効果に迫ります。
フロー理論
フロー理論は、あなたの集中力を最大限に引き出す上で重要な観点を提供してくれます。
フロー理論:
あなたの取り組む仕事や勉強を、挑戦のレベルと技能のレベルに分けて考え、挑戦のレベルと技能のレベルが共に大きいときに、究極の集中状態"フロー体験"が発揮されるという理論。
フロー体験には次のような特徴があることから、ビジネスパーソンや学生にとって理想的な状態であると言えます。
機能面
- 創造的な活動に必須
- 能力や技能の拡張に効果的
意識
- ①課題に無関連な刺激が意識から消えて、課題への強い集中が起きる。
- ②行為と行為者の意識が融合し、行為のための意識的努力が必要とされない。
- ③自分が行為の統制をなしうるという実感。
- ④時間の経過が実際より速く感じられる時間間隔のゆがみ。
- ⑤内省的自己意識の喪失。
- ⑥行為自体の目的化。
- ⑦明瞭な目標と進行中の行為の適切性に関する即時フィードバック。
引用: *2a。
この理論は、ストレス量とパフォーマンスの関係を示した"ヤーキーズ・ドットソンの法則"と同様の主張をしています。
変数は、挑戦のレベルと技能のレベルであることから、適切な課題設定が重要となります。
アンダーマインド効果
アンダーマインド効果は、他人に頼みごとをする際に重要な知見を提供してくれます。この効果はモチベーションと大きな関係があります。モチベーションは、大きく分けて以下の2つが知られています。
- 外発的モチベーション:外部から報酬を与えられることで成り立つ動機
- 内発的モチベーション:行為自体に意味を見出すことで成り立つ動機
子供が勉強する場面を想像すると分かりやすいです。
- 外発的モチベーション:計算ドリルの問題を10問解いたらお菓子を食べて良い。テストの合計点数が学年順位で30位以内に入ったら好きなものを買い与える。
- 内発的モチベーション:新しい理科の知識を知ることが楽しい。答えを見ずに、自分の力だけで問題を解けることが快感。
短期的な動機づけとして、外発的モチベーションは有効です。一方、中長期的な視点では、内発的モチベーションが、能力拡張には有利です。
ここで、内発的モチベーションを持っている人に、外発的モチベーションを引き出すインセンティブを与えてしまうと、逆効果であることが明らかとなっています。
アンダーマインド効果
面白がってやっていた活動、すなわち、内発的に動機づけられた行動に対して外から誘因となる報酬を与えて動機づけを高めてしまうと、もとになっている興味が掘り崩されてしまう*1b。
誰かに何かを頼むとき、あるいは指示を出すとき、その行為が相手の外発的モチベーションを引き出すか、内発的モチベーションを引き出すか、あなた自身が良く理解していることが重要になります。
これは、自分自身のモチベーション管理にも適用できます。つまり、あなたが"やる気を感じられない"タスクには、あらかじめ報酬を設定するのです。そして、そのタスクを続ける内に楽しさを見いだせた段階で、"報酬"を取り払います。何にせよ、何に対して興味を抱いているのか、自己理解が重要です。
おわりに
今回は、最高の集中状態である"フロー状態"を説明したフロー理論、モチベーションを獲得する上で重要な効果である"アンダーマインド効果"についてお話しました。これらはいずれも、いわば人の心に一般にみられる"性質"であり、心理学的な実験を基にした事実です。
集中力やモチベーションには一定の傾向があることを理解していることが、上記と類似のケースに直面したあなたへ力を与えてくれるでしょう。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
*1:
L. ウィトゲンシュタイン (2019) 論理哲学論考 ウィトゲンシュタイン著 第25刷, 訳) 野矢茂樹, 24, 三・一, 三・十一.
*2:
齊藤勇 (2017)、図説心理学入門[第2版] 第22刷, 株式会社誠信書房, a: 今, ここに没頭する心, 61, b: 「ごほうび」は学習意欲を高めるはずなのに?, 47, c: 忘却は始めは急速に、次第に緩やかに進む, 107.