本日も、りけいのりがお届けします。
今回のテーマは、サウナについて。とは言っても、
- おすすめのサウナ10選
- サウナをより楽しむハック7選
みたいなことは取り扱いません。りけいのりでは、科学の眼鏡で世界を覗きます。
読者の皆さんは、サウナ、好きですか? りけいのりは、超がつくほど大好きです。サウナ10分、水5分のサイクルを3回転くらします。スーパー銭湯で見かけたら声をかけて下さい。
ところで、サウナの後の水風呂に関する質問です。
10℃代の水風呂に、どうして長い時間浸かっていられるのでしょうか?
お風呂に入った後では、耐えられなくて直ぐに水風呂から出たくなってしまいます。
そんな疑問に対して、化学工学の観点からお答えします。
サウナ談義
まずは、サウナに関する豆知識から。まずは、サウナの定義です。
サウナとは高温 (70-120℃)、低湿度 (10-30%)の乾燥熱浴のことである1)
とあります。高温でありながら、低湿度であるために、私たちはサウナを楽しむことができているようです。サウナの語源は、フィンランド語の蒸し風呂を意味する"Sauna"です2)。
この文化が日本に取り入れられたのは、1960年代前半とのことですが2)、サウナ自体の歴史はとても深いです。1500年前に、麻の乾燥や肉の燻製に使用していた部屋から、サウナの歴史は始まります3)。
一番最初にサウナを始めようと思った人は、かなりのイノベーター基質ですね。フグやナマコ、ウニを最初に食べようと思った人と、同じ気質を感じます。
このサウナには、ほとんどと言っても良いほど、水風呂がセットでついてきます。火照った体を、10℃-20℃の水風呂で冷やすのです。
そして、今回のテーマの主役も、サウナ後の水風呂になります。
化学工学とは
"サウナ後の水風呂に人体が耐えられる理由"を説明するには、化学工学の導入をすると良いでしょう。まず、化学工学とはどのような学問なのか、説明いたします。
化学工学の大家である橋本先生の教科書から引用します。
化学工学は、化学プロセスを工業化するときに必要な技術が何であるかを明らかにし、それらのエッセンスを整理・体系化し、化学工業をはじめとする広範囲の分野に適用できるようにする工学である4a)。
とあります。
あるプロセスを、工業化するためには、スケールアップが必要となります。この時に、必須となるのが、化学工学に対する理解なのです。よって、工業的に製造されているすべてに、化学工学が関連していると言えます。
あなたの今使っているデバイスのディスプレイや、身にまとっている服や、これから食べる食品や、、これらすべてが化学工学の恩恵に与っています。近代、人類の物質的な豊かさの背景には、化学工学が存在しているのです。
ここまで、化学工学について説明してきましたが、まだイメージをつかめていない方も多いと思います。実際には、どんなことを対象とした学問なの? ということです。以下、化学工学に含まれる学問領域を示します。
- 移動速度論:装置内での物質移動などを取り扱う
- 分離工学:物質の精製や分離について取り扱う
- 反応工学:プラント内での化学反応と物質の収率について取り扱う
- プロセスシステム工学:プラント全体の仕組みを考え、操業を最適化する
などが代表的な領域です。
特に、化学反応 (反応工学) や物質の移動現象 (移動速度論) においては、注目するシステムにおける温度が重要な因子となります。化学反応と系の温度に関連する記事は、"おわりに" に掲載しましたので、併せてご覧ください。
ここで登場するのが、熱交換です。本題に移ります。
水風呂に耐えられるわけ。
熱交換とは、
- 化学反応で発生した熱を除去するため (冷却)
- 化学反応を促進するために熱を加えるため (加熱)
のプロセスを指し、熱の形態にて系とエネルギーのやり取りをします。
熱としてのエネルギーを取り扱うには、熱の移動現象を理解する必要があります。
熱の移動方法は、以下の3つに大別されます。
- 伝導:Conduction
- 対流:Convection
- 輻射:Radiation
特に、水風呂において考えられる熱の移動形態は 1. 伝導と 2. 対流であることから、この2つについて考えてみます。ざっくりとしたイメージとしては、こんな感じです。
以上より、熱の移動は、伝導、対流という2つの形態により媒質中を伝搬することが分かります。このどちらかが欠けると、熱の移動は遅くなります。
実は、サウナ後の水風呂では、熱の伝導が支配的です。
水風呂を満たす冷水と火照った体の間で熱交換が成り立つプラントとして考えます。ここで、体表面の近くでは、水の流れが体表面からの摩擦を受けることで、層流と呼ばれる流れを形成します。これに対して、乱れた流れのことを乱流といいます。
熱の移動の観点からは、乱流の方が有利です。微視的には対流が成立しており、熱の異同が効率的に行われるためです。
一方、体表面付近では、層流が形成されます。この領域のことを境膜といい、化学工学においても非常に重要な概念となります。
つまり、水風呂に入っている人の体表面付近では、サウナで獲得した熱に由来する、衣が存在するのです。例えば、そこに水流を加えると境膜は破壊され、急激に体表面が冷やされてしまいます。
これが、サウナの後、水風呂に耐えられる理由です。
おわりに
いかがでしたか? 実は、皮膚表面では、境膜と呼ばれる熱交換の起こりずらい領域が発生することで、水風呂にも耐えられるようになっていたんです。次、水風呂に入る機会があったら、是非化学工学を意識してみて下さい。
文中に出てきた、化学反応と系の温度の関係については、次の記事を参考にしてください。
本日は、"サウナ後の水風呂に耐えられるわけ"についてお話しました。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) 水田拓道, 植屋清見, 日丸哲也, 永田晟, 山本高司 (1975), サウナ入浴法の検討, 体力科学, 1975, 24(3), 101-107.
2) 語源由来辞典, Accessed: 2020/10/06.
3) サウナ発祥の地フィンランド, Mikon Finland Trading, Accessed: 2020/10/06.
4) 橋本健治 (2015), ベーシック 化学工学 第12刷, 株式会社化学同人, a) 第1章 化学工学とは, b) 第8章 熱の移動.