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【反応速度論】化学反応って何だ。【動力学②】

本日も、りけいのりからお届けします。

 

今回のテーマは、前回に引き続いて、化学反応がどの様にして起こっているのか探求する"動力学"に迫ります。

  • 化学反応式は扱うけれど、一体何が起こっているのか分からない
  • 化学反応の具体的なイメージをつかみたい

そんな方の疑問にお答えできればと思います。

 

前回の記事では、反応速度の指標となる"反応速度定数"を経験的に示す、アレニウスの式についてご紹介しました。本記事では、アレニウスの式の知識をベースに、2つの理論をご紹介します。

 

まだ前回の記事をお読みでない方はこちらからご覧ください。

www.rek2u.com

それでは、動力学の世界にご案内します。

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反応の動力学

まずは、前回の記事の簡単な復習から入ります。

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アレニウスの式 (復習)

数多くの化学反応に関する事例から、スヴァンテ・アレニウスは1本の数式を提案します。その数式はアレニウスの式と呼ばれ、化学反応の温度依存性を示すものでした。

 

一方で、弱点もあります。化学反応において何が起きているのか、全く分からないのです。化学反応における反応速度定数を、アレニウスパラメータと温度によって表現しただけなので、中で起こっていることには一切触れていないのです。

 

そこで、様々な解釈を与え、理論を組み立てることで、化学反応では"具体的に何が起きているのか"探求する欲求が生じます。

 

本日紹介するのは、アレニウスの式に解釈を与える2つの理論です。

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化学反応の二つの解釈

 

これら2つの理論が、今回の記事のメインテーマになります。

 

衝突理論に迫ります。

衝突理論

衝突理論とは、"化学反応が分子や原子の衝突"によって生じるとする理論です。古典力学では、物体の衝突などを扱いますが、ここでは原子や分子の衝突について考えるのです。

 

確かに、化学反応が起こるためには、原子や分子が接近する必要がありそうです。

直観的で分かりやすいですね。

 

衝突理論では、衝突に関係する2つのパラメータに着目します。

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衝突理論

それは、

  • 衝突頻度
  • 分子・原子の有するエネルギー

です。

 

衝突頻度は、その系を構成する分子や原子の濃度が大きいほど、大きくなりそうです。ですから、衝突頻度は濃度に比例するとします。

 

続いて、分子や原子の有するエネルギーは、どの様な値をとるべきなのでしょうか。

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マクスウェルの速さの分布1)

こちらは、マクスウェルの速さの分布と呼ばれる、横軸が速度、縦軸が存在確率密度を表す分布関数です1)。上図の通り、マクスウェルの速さの分布はガウス分布の類型であり、上に凸な関数です。

 

分子や原子の系内を動く速さは、

  • 速度が0~極大値にかけて上昇
  • 速度が極大値~∞にかけて減少

という傾向を示します。

 

横軸を運動エネルギーとして読み替えると、化学反応を起こすための衝突に必要なエネルギーを有する分子そうでない分子閾値が発生します。

 

分子や原子の有するエネルギーは、統計力学的な考察から、ボルツマン分布により求めることができます。次の図に、以上の議論をまとめます。

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衝突理論とアレニウス式の対応

ここで、反応速度を表す式は、"vr=k[A][B]"と反応速度定数によっても表すことができます。すると、得られた式は、アレニウスと同じ形をしていることが分かります

 

非常に美しい導出ですね。

 

このように、アレニウスの式の解釈の一つとして、分子・原子間の衝突を考えるのが、衝突理論です。

 

より詳細な化学反応の解析には、立体因子と呼ばれるパラメータが重要となります。以下に、有機化学で初めに学ぶ、求核置換反応 (今回はSN2反応)を示します。

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求核置換反応と衝突理論

求核置換反応の一種であるSN2反応の例として、ブロモメタンに対する水酸化物イオンの攻撃を考えます。SN2反応における反応点は、電気陰性度の高い臭素に結合した、電子求引された炭素原子です。

 

この反応は、炭素原子を基準として、臭素原子の"反対側から"水酸化物イオンが衝突する必要があります。つまり、特定の方向をもった衝突しか、化学反応を引き起こさないのです。

 

このようなことを反映した立体因子が、反応速度定数を表す式に組み込まれることもあります。

 

続いて、化学反応に量子力学的知見を取り入れた、遷移状態理論についてです。

遷移状態理論

遷移状態理論は、別名"活性錯合体理論"とも呼ばれます。

 

この名前、かっこよすぎませんか?? りけいのりがこの言葉に出会った日、100回は"活性錯合体"と連呼した思い出があります。

 

先ほどまで扱っていた"衝突理論"は、実は気相反応での現象を扱っているのに対して遷移状態理論は液相反応にも適用されます

 

遷移状態理論で重要なのは、次の式です。

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アイリングの式

アイリングの式と呼ばれるこの方程式には、何やら沢山のパラメータが含まれています。全然、アレニウスの式と似てはいませんね。とりあえず、その問題は棚上げして、量子力学において重要な定数であるプランク定数について説明します。

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プランク定数とは

プランク定数とは、量子力学世界の開闢に伴って導入された定数です。"プランク"は、量子力学創始者であるマックス・プランクの名前に由来します。

 

ここで重要なのは、遷移状態理論において重要なアイリングの式には量子力学に固有なプランク定数が含まれるということです。では、アイリングの式を解剖してみます。

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アイリングの式

まず、2種類の分子(あるいは原子)が存在する系にて反応が進行するとします。ここで、2種類の分子はくっついてみたり、はなれてみたりします。この、両者がくっついて、分子たらしめる化学結合の組み換えが起こりそうな状態を、遷移状態といいます。この時の遷移状態にある、反応生成物Cの全身を、活性錯合体C‡(シー・ダガ―)とします。

 

AとBという反応系に対して、C‡という生成系が存在し、その間で化学平衡が生じていると考えるのです。平衡定数が大きい程、C‡に系が偏っており、反応は進行しやすいです。

 

その他にも、振動エネルギーから並進エネルギーへの変換項や、活性錯合体が必ずしも遷移状態に至らないことを考慮した透過係数など、様々な項により反応速度定数が記述されます。

 

ここまで来ても、やっぱりアレニウスの式とは似ても似つかないアイリングの式。実は、この平衡定数をギブズの自由エネルギーという熱力学量に変換して、初めてアレニウスの式と似た形に変形されます。

おわりに

最後に、化学反応の進行を端的に示す、反応断面図を紹介します。

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2つの反応断面図

ここで、反応断面図の横軸は反応進行度、縦軸にはエネルギーをとっています。

i) 衝突理論

  • 分子(または原子) 同士の衝突に注目している。
  • よって2つの分子の衝突に伴う、2分子の全エネルギーの変化が生じるため、連続的なエネルギープロファイルが得られる。
  • 反応に必要なエネルギーEaは活性化エネルギーと呼ばれる。

ii) 遷移状態理論

  • 分子(または原子) 同士で活性錯合体を形成することに注目している。
  • 先ほどとは異なり、反応系(A,B)と遷移状態(C‡)の平衡状態に着目しているので、連続的なエネルギープロファイルは取らない。

と、様々な切り口により、化学反応は理解されます。

 

現代においては、このような化学反応の反応機構は量子化学計算とおいう計算科学の範疇になりつつあります。今後、よりクリアに化学反応が視覚化される時代が来ると良いですね!! 

 

化学反応において重要となる、化学結合については、以下の記事にてまとめたので、併せてご覧ください。

www.rek2u.com

以上、りけいのりがお届けしました。

参考文献

1) P. Atkins, J. de Paula, D. Smith (2013) Elements of Physical Chemistry 6th Edition, 訳書 アトキンス 物理化学要論 (第6版), 訳) 千葉秀昭, 稲葉章, 株式会社東京化学同人, 10. 反応速度.

 

2) J. McMurry, E. Simanek (2015) Fundamentals of Organic Chemistry, 訳書 マクマリー 有機化学概説 (第6版, 第8刷), 訳)伊藤しょう, 児玉三明, 株式会社東京化学同人, 7. ハロゲン化アルキル.

マクマリー有機化学概説 第6版

マクマリー有機化学概説 第6版

 

3) L.I. Schiff (1955), Quantum Mechanics 3rd Ed. (International Edition), McGRAW-HILL BOOK COMPANY, 2, 3, 31.

www.chem.kindai.ac.jp

4) 高橋博彰 (2013), 物理化学演習 1―大学院入試問題を中心に 第1版 第20刷, 株式会社東京化学同人, 10.3 速度定数の温度変化と素反応の理論.