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【化学結合論】つかう、分子軌道法。【HMO④】

本日も、りけいのりがお届けします。

 

今回扱うのは、シュレディンガー方程式の各項が示す意味と、ヒュッケル近似の導入です。前回の記事までに学習してきた内容を全て生かして、本日の内容に挑みます。未だご覧になっていない方は、以下からどうぞ。

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まずは、シュレディンガー方程式の各項における意味に迫り、続いてヒュッケル近似の説明を行います。

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シュレディンガー方程式の示す各項

まずは、シュレディンガー方程式の各項が示す意味について考えます。

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シュレディンガー方程式の各項の意味

シュレディンガー方程式の各項はそれぞれ、電子の有する運動エネルギー項、ポテンシャルエネルギー項、そしてそれらの和を示す全エネルギー項により構成されます。高校物理で扱う、力学的エネルギー保存の法則と似た形をしていますね。

 

それもそのはず。本記事ではシュレディンガー方程式の導出を行っていませんが、実はエネルギー保存則の観点からシュレディンガー方程式を導出することが可能です。

 

特に、力学的エネルギー保存の法則を示す方程式と、シュレディンガー方程式が異なる点は、シュレディンガー方程式微分方程式であるということにあります。

 

さらに、数学的には、運動エネルギー項ポテンシャルエネルギー項は、波動関数との積で与えられているわけではありません。これらは演算子と呼ばれる部類の項であり、ある関数に対して作用させることで、別の関数にする効果があります。

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演算子波動関数の関係は、積では無いので要注意!!

 以上は、分子軌道を扱う上で重要な前提知識となります。

 

以降は、ヒュッケル近似について説明します。 

 

ヒュッケル近似の導入

ヒュッケル近似を語る上で、まずはヒュッケル大先生についてのお話です。ヒュッケル先生はドイツの化学、物理化学者で、化学系、物理系の学生であれば必ず一度は耳にする名前です。

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E. Hückel

ヒュッケル先生の名前は、教科書の至る所に散見され、

  • Debye-Hückelの式:電解質溶液におけるイオンの平均活量係数の算出
  • Hückel法:分子軌道法におけるπ電子系の近似
  • Hückel則:芳香族性を示す有機化合物の、π電子の数に関する規則

と、いずれも大きな影響を科学に与えています。

 

既に、出てしまいましたが、今回扱うのは、Hückel法です。特に、分子軌道法においてHückel近似を取り入れたものをHückel法 (ヒュッケル法) といいます。そして、ヒュッケル法が適用されるのは、π電子系に関与する分子軌道となります。

 

有機化学無機化学系の学生以外はあまり馴染みの無い言葉かと思いますので、次節で説明を致します。

π共役系について考える

 π共役系とは、σ結合π結合の構造単位が繰り返されることで生じるような、電子の非局在系です。といっても、ここで沢山のキーワードが発生したので、順に説明します。まずは、σ結合とπ結合についてです。

 

前回の記事で、波動関数 (=軌道) は、空間的に様々な形をとることを学びました。

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様々な形状の軌道1)

そして、これら軌道が電子の存在する確率の密度を表すものであることを学びました。このように、様々な形をとる軌道は、別の軌道と干渉することで結合を作ることも、前回の記事で学んでいます。

 

そこで、例として、s軌道と呼ばれる波動関数p軌道と呼ばれる波動関数同士の重なりについて考えてみましょう。

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σ結合およびπ結合の生成

ちなみに、sはsharpのs、pはprincipleのpです。ここで、2つの軌道が重なることによって、確率密度分布の大きくなる領域が発生し、化学結合が形成されます。s軌道、p軌道それぞれの形成する結合は、性質が異なります

 

そこで、

  • σ結合: s軌道同士の形成する、結合軸に円柱対称な結合
  • π結合: p軌道同士の形成する、結合軸に円柱非対称な結合

命名します。σおよびπは、sおよびpのギリシャ文字に対応します。

 

結合の円柱対称性は極めて重要です。円柱対称なσ結合の場合、片方のs軌道を回転させたとしても、回転前後で軌道の様子は変化しません。よって、σ結合は回転の自由な結合です

 

一方、π軌道は円柱非対称であり、片方のp軌道を回転させると軌道の重なりが失われ、結果として結合が切れることになり、化学結合による安定化の効果が失われてしまいます。よって、π結合は回転が束縛された結合です

 

また、電子の存在する位置に着目してください。

  • σ結合: 2つの原子核の近傍に、電子が存在する。
  • π結合: 2つの原子核から離れたところで結合を形成し、電子も離れている。

これは、π結合の電子は原子核によって束縛されておらず、

  • 比較的高エネルギーである
  • 化学反応に利用されやすい

等の特徴を示します。

 

さらに議論を進めてみます。σ結合とπ結合が交互に存在する場合の、π結合の様子について考えてみます。

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π共役系の形成

このように、π結合が存在しないσ結合のみの区間π結合の存在する区間が隣接すると、軌道の重なりが生じて、新たなπ結合が形成します (赤字)。

 

これこそが、π共役系の全貌です。また、電子の不確定性より、π結合内から、π共役系内へと電子の存在確率密度が一気に広がります

 

π結合内で電子が局在化していると表現し、一方π共役系内で電子は非局在化していると表現します。

 

そして、このπ共役系こそがHückel近似の適用される分子軌道の系となります

おわりに

最後に問題提起です。近似にしか過ぎない、分子軌道法を学んで、どんな得があるのでしょうか? 何故、π共役系にしか適用のできないヒュッケル法なんか学ぶのでしょうか

 

これは、非常に的確な疑問です。本来、化学物質という非常に複雑な挙動を示す対象を、いかにして記述するかというのが、化学という学問です。化学物質には、切り口によって色々な側面が備わっています

 

ある切り口で物事を捉えるということは、別の切り口での物事の見え方を切り捨てることに等しいです。ですから、多角的に化学物質を捉えることが重要で、よって様々な分野の学問が必要になるわけです。

 

その一分野として、物理化学、量子力学が存在しており、その中に化学結合論、ひいては分子軌道法が存在します。

 

よって、もともとモデル化して考える科学は近似をすることが前提であること、が1つ目の疑問に対する回答です。

 

さらに、分子軌道法におけるヒュッケル法には、簡単な近似から分子軌道の性質に関する多くを学べる、というのが2つ目の疑問に対する答えとなります。

 

これらに答えてくれない先生が多いのも、化学系の学生を分子軌道法がつまづかせる理由かもしれません。

 

本記事では、シュレディンガー方程式の各項の意味の説明とヒュッケル近似の導入を行いました。次回からは、ヒュッケル近似を用いて、π共役系を構成する分子軌道について扱います。

 

以上、りけいのりがお届けしました。 

参考文献

 1) Orbital Shapes EWT, Accessed: 2020/10/09.

energywavetheory.com