本日も、りけいのりがお届けします。
今回のテーマは、大学において多くの化学系学生がつまずく、分子軌道法です。本記事は、3部構成を予定しています。
今まで培ってきた化学的な世界観に、ミクロな物体の記述を得意とする量子力学が、ずかずかと入ってきます。しかも、沢山の数式を引っ提げて。これは確かにビビります。
でも、より深い化学への理解には、分子軌道法の導入が欠かせません。よって、まずは分子軌道法を導入することによるモチベーションを概観した後に、分子軌道法の中でも基本的な、ヒュッケル法における分子軌道、HMO (Hückel Molecular Orbital) について取り扱います。
特に、本記事では、
について取り扱います。
原子から分子へ
まずは、分子軌道法を学ぶことの重要性について考えてみたいと思います。そのために、分子軌道法とは何を意味する語なのか、確認してみましょう。
分子軌道法では、電子が分子全体にわたって広がったものとして捉え、電子それぞれは全部の結合の強さに寄与すると考える1)
..とは説明してみても、化学専攻の学生、既修者以外には漠然としていて、とらえどころが無いのではないかと思います。
ですので、中学化学から出発して、分子軌道法の必要性について説いてみます。
まず、原子とは何でしょうか。多くの方は、この世のすべての物質を構成している、つぶつぶとしてイメージするのでは無いでしょうか。実は、この認識は半分正解で半分不正解。ここでは、つぶつぶとして考えてもらって差し支えありません。
これらの原子は、他の原子と結合することで分子を形成します。原子と原子の組み合わせによって分子が形成されるので、その種類は膨大なものとなります。我々の生きる世界も、分子が彩を与えています。
以上、原子や分子の化学反応について、中学や高校では扱ってきたことと思います。しかし、ここでは化学反応の各論について取り扱うことはしません。一歩踏み込んで、原子と原子が、何故結合するのか、ということについて考えます。
ここでは、古典力学的な解釈から説明します。原子は、さらに小さな構成要素からなります。陽子 (proton)、電子 (electron)、中性子 (neutron)です。
ここでは、ヘリウム原子を例にとりました。プラスに帯電する荷電粒子 (ここでの陽子)とマイナス (ここでの電子) の間には、クーロン力と呼ばれる静電気的な引力が発生します。この、引き合う力こそが、数Å (オングストローム: 1 Å = 10^-10 m)に陽子と電子をとどめており、原子としてのまとまりを発揮する一つの原動力になっています。
ここで鋭い方は、陽子と陽子の間、電子と電子の間にて斥力 (反発力) が生じるのでは無いか? と考えると思います。これは大正解です。
例えば、原子番号が増えるに従い、原子の有する電子の数は増しますし、厳密な原子の挙動を理解するためには反発項を考える必要があります。
陽子に関しては、非常に狭い原子核内に、プラスの電荷が閉じ込められる格好となります。クーロン力は、距離の逆二乗に比例して大きくなることから、原子核は非常に大きなエネルギーの反発が生じていることになります。
ここで、
を示します。しかし、原子核が安定的に存在しているということは、何かクーロン力を上回る引力が存在していることを示しています。ここからは素粒子物理学の範囲になりますが、陽子と陽子は"強い力"という何とも漠然とした名前の力によって結び付けられています。
...と、かなり脱線してしまいました。
それでは原子間を結びつける力を古典力学的に考えます。仕組みは、以下の通りです。
ここでは、水素原子の結合による水素分子の形成を考えます。以上のように、原子間で電子を共有することによって、電子は2つの原子核より静電気的な引力を受け取ることができます。これはすなわち、原子間で電子を共有したほうが、静電気的に安定であることを示しています。
続いて、分子軌道法を学ぶ意味について考えます。
何故、分子軌道法を学ぶのか
では、なぜ分子軌道法を学ぶのでしょうか。
それは、
- 有機化学における反応を支配する理論、フロンティア軌道論に必須の概念
- 今後さらに発展の見込まれる計算化学の基礎
だからです。化学のIntroductionにて示した図を再掲します。
ここで、分子軌道論の理解には、物理化学、有機化学、量子力学が必要となります。これらの学問の複合により、分子軌道法は成り立っており、それにより化学結合は厳密に説明されるのです。
この分子軌道法を理解することが、化学の修学における一つのマイルストーンと言っても、過言ではないとりけいのりは考えています。量子化学計算においても、分子軌道法に関する概念が重要となります。
おわりに
今回は、分子軌道法の導入をしました。いかがでしたか?
理解をするまでは、なかなか難しい考えですが、理解をすると多くの化学反応がクリアに見えてきます。そんな世界を、りけいのりはあなたと楽しみたいと思っています!!
"【化学結合論】わかる、分子軌道法。【HMO②】"も、お楽しみにしていて下さい。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) P. Atkins, J. de Paula, D. Smith (2013) Elements of Physical Chemistry 6th Edition, 訳書 アトキンス 物理化学要論 (第6版), 訳) 千葉秀昭, 稲葉章, 株式会社東京化学同人, 14. 化学結合.