本日も、りけいのりがお届けします。
突然ですが、化学反応って、具体的には何が起こっているのでしょうか。
今回のテーマは、化学の中心的な関心である、化学反応の本質に迫ります。中学生では、非常に簡単な化学反応式から学修をしますが、どのような現象がそこでは起こっているのか。化学種が、反応を起こして、別の化学種になる。そうなると、反応って具体的には何なのか。当然の疑問が湧いてきます。
実態の伴う化学反応ならば、そこでは必ず何かが進行しているのです。
化学反応にて、具体的には何が起こっているのか。そんな疑問に、本日はお答えできればと思います。
大科学者・アレニウスの発見
化学反応の本質に迫る前に、少し歴史を遡る必要があります。時は1898年、
"酸によるショ糖の転化の際の反応温度について" Uber die Reaktionsgeschwindigkeit bei der Inversion von Rohrzucker durch
sauren, 1898 1)
という論文が世の中に産み落とされました。著者は、スウェーデンの化学者であるSvante Arrhenius (アレニウス)。
そこには、多くの実験データから得た経験を基に、1つの規則性を見出しています。それが、次式のような温度と反応速度の関係です。
これは、反応速度論を学修する人間であれば誰でも知っている経験式、つまりアレニウスの式と呼ばれます。反応速度と活性化エネルギーが、指数関数により結ばれています。
- k: 反応速度定数 (Rate Constant)
- A: 頻度因子 (Frequency Factor)
- Ea: 活性化エネルギー (Activation Energy)
- R: 気体定数 (Gas Constant)
- T: 絶対温度 (Absolute Temperature)
この式の意味するところは、化学反応の進行速度が、温度の上昇に伴い指数関数的に増大する、ということです。しかも経験式であり、現象を記述していることがポイントになります。
- 例えば、絶対温度項であるTを大きくすると、Ea/RT項は非常に小さくなります。ここで、指数項は逆数値をとるので、その値は非常に大きくなります。つまり、化学反応の進みやすさを示す反応速度定数が大きくなるのです。
ここで、活性化エネルギーおよび頻度因子を合わせて、アレニウスパラメータと呼びます。さらに、アレニウスの式を自然対数で整理したグラフを、アレニウスプロットと呼びます。
ここで、アレニウスプロットの温度依存性を考えると、反応速度定数と温度の関係が見えてきます。①が系の温度の増大、②が活性化エネルギーの増大を示します。
①では、温度の増大に伴ってその逆数値は減少し、結果として反応速度定数の対数値は直線的に増加しています。つまり、温度の増大に伴い、反応速度定数は指数関数的に増大しています。
②では、反応そのものを進行させるために必要な活性化エネルギーEaの増大を示しています。活性化エネルギーの増大は、アレニウスプロットの傾きを大きくしています。つまり、進行しにくい反応 (活性化エネルギーが大きい反応) ほど、反応速度の温度依存性が大きくなるのです。
ここからは裏話ですが、もう一人の大物理化学者にして、アレニウスの親友であるファント・ホッフは、反応速度の温度依存性に関して、その多くの知見を既に知っていたようです2)。つまり、アレニウスは二番煎じをしていたも同然なのに、その功績はアレニウスによるものとなっているのです。まーファント・ホッフ先生もめちゃめちゃ業績を挙げているので、アレニウスに一つくらい譲ってあげてください...
以上では、19世紀に明らかとなった化学反応の性質についてまとめました。では、21世紀における化学反応は、どのような描像が与えられているのでしょうか。
計算科学との調和
21世紀における化学反応は、計算科学との融合を果たしています。
- 20世紀後半に誕生した計算科学
- 20世紀前半から中盤にかけて体系が整った量子力学
- 多くの実験データが揃っている物理化学
これらが集合することで、計算科学は目覚ましい進化を遂げ、今に至ります。簡単な化学反応であれば、ノートパソコンでも計算により描けるようになり、様々な実験データと良い一致を得ています。
今後、計算科学のさらなる発展と、化学反応の良い再現が期待されます。
おわりに
本記事では、
- 化学反応の19世紀後半における理解
- 化学反応の21世紀における理解
を概観しました。もったいぶってしまいましたが、次回お話するのが、19世紀と21世紀の化学観をつなぐ、反応の動力学です。
反応の動力学の基礎は、やはりアレニウスの式。この式を、様々な方法で解釈することで、化学反応にて何が起きているのか、明らかにします。次回の記事も、お楽しみいただけたら幸いです。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) S. Arrhenius (1889), Uber die Reaktionsgeschwindigkeit bei der Inversion von Rohrzucker durch sauren, Zeitschrift für Physikalische Chemie, 4, 226.
https://www.degruyter.com/view/journals/zpch/4U/1/article-p226.xml
2) 小岩昌宏 (2000), アレニウスと反応速度論 -伝記に見るその人物像-, まてりあ, 39, 1.
3) P. Atkins, J. de Paula, D. Smith (2013) Elements of Physical Chemistry 6th Edition, 訳書 アトキンス 物理化学要論 (第6版), 訳) 千葉秀昭, 稲葉章, 株式会社東京化学同人, 14. 化学結合.