本日も、りけいのりがお届けします。
今回の記事では、
- 当たり前だと思って考えたことが無い
- 改めて考えるとフシギ
そんな内容を取り扱います。注意深く身の回りを眺めてみると、そこには科学的な現象が隠れていることが良くあります。
テーマは、"鳥は何故感電しないのか"。非常に素朴な疑問です。鳥さんたちは悠々と空を舞い、地を歩く、ホモサピエンスにとっても身近な生命体。"飛ぶ"という行為はやはり体力を消耗するのでしょうか? 鳥さんが電線で休んでいる光景を、よく目にするかと思います。
彼らは電気が好きなのでしょうか? 充電しているのでしょうか? いえいえ、そんなはずはありません。鳥を含めた我々動物は、電気化学的な指令を基に、神経間の連絡を取り、筋遷移の運動を制御しています。つまり、外部から生物に電流が流れ込むということは、随意・不随意に関わらず情報伝達・運動現象の命取りになることを意味します。
今回は、そんな鳥さんと電気の関係についてお話します。
鳥の足は何でできている?
まずは、鳥の足は何からできているのか、というところから考えてみましょう。鳥の足を考えてみると、鶏、スズメ、カラスなど、様々な鳥の色とりどりなイメージが湧いてくるのではないでしょうか。こんな感じに。
"何で人の足が鳥になってもうてるんや!!"という声が聞こえてきそうです。宇宙空間において、人の血液は重力の影響を受けなくなるので、上半身へ必要以上に血液が送り込まれ、足が細くなってしまいます。この現象を、バードレッグといいます。まーそんな話は置いておいて。
上の図を見ると、なんだか、角質というか、固い材質を連想させますよね。
そもそも、我々が鳥の足と呼んでいる部位は、跗蹠(ふせき)や趾(あしゆび)と呼ばれる部位で構成されます。これらの部位は主にβ-ケラチン、つまり爬虫類の鱗を構成するような硬質のタンパク質で構成されます*1。我々を構成するタンパク質の仲間ですね。
それでは、髪の毛が電気の導線になることはあるのでしょうか。特殊な場合でもない限り、なさそうですね。何故通さないのかというと
電流の媒介となる電子が、髪の毛の構造中を自由に動けなかったり
イオンが伝導する機構が備わっていない
という理由が挙げられます。ですから、鳥の足は基本的に電気を通さないと考えてよさそうです。
しかし、印加された電圧が高圧な場合は話が変わりますね。空気も絶縁体ですが、雷は雨雲から地面にめがけて落ちてきます。絶縁体といえど、電気抵抗が大きなだけで、電気を通さないわけでは無いのです。
電線概論
では、電線にはどの程度の電圧がかかっているのでしょうか。実は、電線(配電線)には2種類あり、"高圧電力"のものと"低圧電力"のものに分けられます。
- 高圧電力:6600 V
- 低圧電力:100V or 200 V
(参考: *2
このように、電圧には30倍から60倍の違いがあるのです。発電所から送られてきた電力は、送電する際に電圧を小さくして、家庭に届くころには100 V程度になるよう制御しているのです。
では、最大で6600 Vの電圧が鳥の足にかかるのか?! 鳥ちゃん死んじゃうんじゃないの?! となりますよね。でも、安心してください。ここまで話しておいてなんですが、通常配電線には絶縁体による保護がなされているので、鳥がとまっていても感電することは無いのです。
それでは思考実験です。裸線の状態にある電線に鳥がとまった場合は、どうなるのでしょうか。実際に裸線の電線も、地域によってはあるかもしれませんし、考えてみる価値はあります。
電気の流れる方向と鳥の足
やっぱり答えは、やはり感電しない、です。何故か。それは、電流の流れる方向を決める、電位の概念が関係しています。電気の位置エネルギーと考えると、電位の概念が分かりやすいかもしれません。
電流とは、"導体中の電子の流れ"ですが、電子には、電位が高いところから低いところへと向かう性質があります。高圧のところから低圧のところへ行きたいのです。
では、鳥が電線にとまっている様子を思い浮かべてみて下さい。大体が、1本の電線にとまっているのでは無いでしょうか*3。これが謎を解くカギになります。
ここで、鳥が電線にとまった場合、2つの回路が成立します。
- 鳥のカラダを経由して送電される回路
- 鳥のカラダを経由しないで送電される回路
こうなったとき、電流が流れるか流れないかを決めるポイントは、電位差と抵抗です。
まずは、鳥のカラダを経由する場合を考えてみましょう。鳥のカラダを経由する場合、ケラチンやカラダの内部(水など)を電子が経由することになります。かなり電子は通りずらそうです。一方で、鳥の足と足の感覚は数cm程度。大きな電位差があるはずもなく、電子へかかる推進力もごくわずかです。
続いて、鳥のカラダを経由しない場合を考えてみましょう。鳥のカラダを経由しない場合、電子はすいすいと金属中を進んでいきます。電気抵抗が鳥と比較して非常に小さいです。数cmの導線間隔では電位差はわずかですが、鳥の内部を通るよりも電子の導通には有利です。
よって、結局は鳥の体ではなく導線を電流が流れるため、鳥は感電しないのです。でも、こんな状況だったら、感電してしまうかもしれませんね。
おわりに
今回は、"鳥は何故感電しないのか。"という疑問を通して、配電に関する知識、電気の性質、鳥の足について学びました。
身の回りの現象は、全て科学的因果律が支配しています。ですから、疑問に思ったこと、分からないことは、何事も"なぜ(Why)"を5回も繰り返せば、大抵科学の勉強になるものです。
Tesla社、SpaceX社、Neuralink社を率いるイーロンマスク氏は、こんな言葉を残しています*4。
物理学のレベルまで掘り下げろ
Boil things down to their fundamental truths and reason up from there.
Elon Musk *5
科学的に世界を眺めることは、究極のロジカルシンキングといえます。生きることが、学びとなり、学びが幸せとなる。この記事が、そんなことのきっかけになれば幸いです。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
*1:P.R. Stettenheim (2000), The Integumentary Morphology of Modern Birds—An Overview, American Zoologist, 40(4), 461–477.
*2:エネチェンジ、高圧電力と低圧電力の違いとは?1分でわかる見分け方のポイント、Accessed: 2020/11/21.
*3:毎日新聞、疑問氷解 電線の鳥、なぜ感電しない?、Accessed: 2020/11/21.
*4:現代ビジネス, ついに日本上陸!テスラ・モーターズ「モデルX」開発秘話, Accessed: 2020/11/21.
*5: Inc., 8 Powerful Lessons You Can Learn From the Career of Elon Musk, Accessed: 2020/11/21.