本日も、りけいのりよりお届けします。
突然ですが、皆さんは今朝、起床してから何を飲みました? 白湯、オレンジジュース、お茶... 色々あると思います。その中でも、非常に普及している飲み物として、
コーヒー
が挙げられます。コーヒー中には、カフェインと呼ばれる生理活性を示す物質が含まれます。つまり、コーヒーは一種の薬とみなせるでしょう。
今回の記事では、そんなコーヒー中に含まれるカフェインの正体と力に迫ります。
カフェインの化学
まず、カフェインとはどのような物質なのでしょうか。以下に基礎データを示します。
分子内に環構造を有しており、窒素がたくさん含まれているのが分かります (窒素: 図中青色原子)。純粋なカフェインは白色結晶であり、においもないというのは少し驚きですね。味は、予想通り苦いです。
今から2020年前に発見されたカフェインは、アルカロイドの一種です2)。アルカロイドとは、植物から酸性条件下で抽出される物質を指し、生物に対して強い生理活性を示します3)。
ここで、アルカロイドの多くは、骨格中に炭素以外の原子を含む環を持つヘテロ環化合物であることが多く、麻薬の有効成分であるコカインやチョコレートの苦み成分であるテオブロミンなどが含まれます。
16世紀、スイスの人であるパラケルススは、以下のような格言を残しています。
かっこいい....!! こんな言葉、一生の内に一度は言ってみたい...
この一言に、毒性学と薬理学の本質的な関係が凝縮されています。
意味としては、量によっては薬が毒になるということです。
以上に示したのは、用量作用曲線と呼ばれる、薬や毒の投与量 (用量) と作用 (薬効または毒性)の関係を示した曲線です。このように、低濃度であると人間に対して薬効を示すものでも、高濃度になると毒性を示すのです。まさに、用量によって薬が毒になるのです。
勿論、カフェインにも用量作用曲線が存在します。低濃度の摂取では、眠気や倦怠感の改善に効果があるとされていますが、高濃度では強い毒性を示します2)。毒性の指標であるLD50値として、雄性マウスに経口投与をした場合は127 mg/kg とされています2)。
LD50値 (Leathal Dose 50) とは、生体に生理活性物質を投与した際に、マウス10匹の内5匹が死に至るような投与量を体重で規格化した値となります。
カフェインは、まさに薬であり毒なのです。次に、コーヒーの生理活性について解説します。
何故、コーヒーで目覚めるのか。
カフェインの生理活性については、既に詳しく明らかにされています。ここで登場するのは、アデノシン (睡眠負債)、カフェイン、アデノシン受容体です4)。人が眠くなる要因の一つとして、脳内での代謝が進行することで発生するアデノシンの濃度が上昇することがあります。
生物学を学んだことのある人ならお馴染み、生命のエネルギー通貨であるATP (アデノシン三リン酸)の分解によってアデノシンは生じます。よく脳を使うと、脳内にアデノシンが蓄積されていきます。このアデノシンは、アデノシン受容体に認識されることで、眠気が誘発されます。
ここに、カフェインが存在すると、アデノシンのアデノシン受容体への認識を阻害することで、眠気の誘発を阻止します。
ちなみに、アデノシンは睡眠負債として称される物質で、適切な睡眠をとらないことで脳内に蓄積していきます。睡眠負債の蓄積が、認知機能の低下などを引き起こすのです。
おわりに
いかがでしたか? 今回は、カフェインを化学的、生化学的な観点から解説しました。コーヒーが、スーパーの飲料コーナーで手に入る、身近な薬であることがお分かりいただけたと思います。
次、あなたがコーヒーを摂取する際には、是非、アデノシン、アデノシン受容体、そしてカフェインの関係を思い出してみて下さい。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) The Structure and property were referred from PubChem, Accessed: 20200926.
2) 船山信次 (2013), 史上最強カラー図解 毒の科学 毒と人間のかかわり, 株式会社 ナツメ社, 60, 70, 215.
3) 奥山格, 石井昭彦, 箕浦真生 (2016), 有機化学 改訂2版, 丸善出版株式会社, ノート 19.3 アルカロイド:天然のアミン, 328.
4) 櫻井武 (2017), 睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか, 株式会社講談社, コーヒーを飲むと眠れなくなるのはなぜ?