本日も、りけいのりからお届けします。
今回のテーマは、熱力学に関係します。
何といっても、近年は異常気象が多いです。
そして、この気象現象は、熱力学によって多くを説明できます。
本質的なことを理解するためには、多少の熱力学に関する素養を必要とするのです。
☺うぇ、学んだことないよ。。
そんな人でも安心してください。数式もバリバリ出てきますが、要点さえ抑えてもらえれば外観をつかめるような内容にしてあります。
この記事で、フェーン現象を理解できるようになります。
熱力学とはどのような学問か
熱力学は、蒸気機関の普及と産業革命に密接に関連した学問です。すなわち、より実用的な熱機関を追い求め、熱効率を高めたいというパッションが、学問を発展させる大きな推進力となりました。
エンジニアリングの起点ともいえるでしょう。エンジニアにもエンジンという語が入っているくらいですもんね(ちなみに、エンジニアは古フランス語のengigneor: 技師に由来するそう1))。
よって、熱力学は18世紀-19世紀に大きく発展を見せた学問といえます。しかし、熱力学の理論は熱機関への応用にとどまらず、超流動や超電導、統計力学や量子力学の学習において超重要です2)。
様々なサイエンスの根底となる盤石な理論。
それこそが熱力学です。
一般相対性理論で知られるアインシュタインも、熱力学に関する論文を何本も執筆しています2)。
ここで面白いのが、分子論的な解釈を必要とすること無しに、多くのことを明らかにする点です。18世紀、原子や分子などは未だあるかも定かではない。そんな時代に、この理論の基礎は完成しています。
つまり、巨視的な(マクロな)系を記述するにおいて、重要なのは構成粒子ではないのです 。もちろん厳密には、分子や原子の相互作用も大切になってきますが、大枠としてはそのような粒子の区別をするまでもなく、様々なことが言えるということです。
ここで重要になるのが、"熱力学は平衡状態を前提とした理論である"ということ。
平衡状態は、熱的平衡状態、力学的平衡状態、物質的平衡状態、化学的平衡状態など様々存在しますが、要は見かけの変化が無いような系を想定するのです。
平衡状態においては、系の状態を規定する変数が定義できます。それは、圧力、温度、体積などがそれに相当します。
これら、系の状態を規定するパラメータとパラメータの間には、しっかりとした関係性があります。つまり、平衡状態における系の圧力、温度、体積から様々なことを知ることができるということです。
熱力学を理解し、扱えるようになると、人生が楽しくなります。
続いて、高度と気温の関係を定式化します。
高度と気温の関係を定式化してみる
さて、熱力学の導入を終えたところで、ここからは数式をバチバチに使います。
数学を使いたくないよ、という人のために、ここで得られる結論を端的に示します。
ここからは数式が出てくるので、飛ばしてもらっても結構です。
熱力学においては、条件の設定を行うことが大切になります。
- どの様な系か: 孤立系、閉鎖系、開放系
- どの様な過程をたどるか: 準静的過程、不可逆過程、等温過程、などなど...
今回考える条件は、
- 準静的過程: 考える空気塊は常に熱平衡状態であるとします。
- 断熱変化: 空気は熱伝導率が低く、また空気の上昇・降下は周囲の大気との熱交換と比較して十分に早いと考えられる。
- 理想気体: 本当は実在気体で考えるべきですが、理想気体でも現象の把握は可能です。
断熱変化・準静的過程においては、温度と圧力に関する関係式はポアソンの式により与えられます。
ポアソンの式を用いると、絶対温度に対する気圧の関係式を示す微分方程式を得ることができます。。
ここで、式変形としては
となります。
しかし、ここで得られたのはあくまでも絶対温度と圧力に関する微分方程式。
そこで、高度と圧力に関する微分方程式を別途立式する必要があります。
この立式に関する重要なポイントは、
- 気柱の微小体積要素にかかる力を考える。
- すると、鉛直方向に関する力の釣り合いを考えればよいことが分かる。
- 気柱上面と気柱下面にかかる気圧、そして気柱そのものにかかる重力が考えられる。
ここで、理想気体の状態方程式を変形すると、次式が得られます
この式を圧力と高度の関係式に代入し、高度と気温の関係と組み合わせることで、次式が得られます3)。
これは、気象現象で見られる一般的な関係です。
そして、この関係式こそがフェーン現象を理解する上で重要になります。
フェーン現象を考える
最後に、フェーン現象について考えてみましょう。
フェーン現象とは、
山を越えて風が吹くとき、山の風下付近では気温の異常な上昇がみられるという現象です4)。
気温の低下と上昇に関しては、高度と気温の関係(前節)で求めたように明らかです。
ここで、山を越える以前の風上側では、降水、降雪が発生します。
この現象は、水蒸気であった水が液体・固体として風上に取り残されることを示します。つまり、空気塊としての比熱は風上側で大きく、風下側で小さいことになります。
すると、準静的・断熱膨張および圧縮が発生する際の温度変化は、風上および風下で変化することになります。
以上の理由から、風下側では異常に高い温度の空気塊が生じるのです。
おわりに
今回は、
- 熱力学の導入
- 熱力学的に高度と気温の関係を考察
- フェーン現象の解説
を行いました。
熱力学は、気象からエンジンまで、本当に幅広いことを教えてくれます。
今後も、熱力学に関するエトセトラを発信していく予定です。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) KONISHI Tomoshichi, MINAMIDE Kosei and TAishukan, ジーニアス英和大辞典, 大修館書店.
2) 小暮陽三 (2009), ゼロから学ぶシリーズ ゼロから学ぶ熱力学, 株式会社 講談社サイエンティフィック, 第0章.
3) 染田清彦 (1997), 物理化学演習Ⅱ -大学院入試問題を中心に-, 株式会社東京化学同人, 134-135, 広島大・理・化・1986を参照.
4) 饒村曜 (2015), ここが出る!! 気象予報士 完全合格教本[改訂3版], 株式会社新星出版社, 130.