本日も、りけいのりからお届けします。
対象読者は...
- 薬学/薬学を専攻したい学生
- 食品科学/食品科学を専攻したい学生
- 農学/農学を専攻したい学生
- アミノ酸を覚えて周囲にマウントをとりたい人
です!!
今回のテーマはズバリ、"アミノ酸を覚えよう"です!!!
生化学や有機化学の教科書に必ず出てくる奴ら。
- あのページ、勉強の際に素通りしてませんか?
- アミノ酸をうろ覚えのままにしていませんか?
正直言って、勿体ない!!
彼ら/彼女らの化学性を理解することは、酵素反応などより高次の議論に必須です。
本記事では、20種類のアミノ酸の構造式と充填モデル、そして物性値をまとめました。
アミノ酸に馴染みのない方にも、お読みいただける内容です。
目指せ、アミノ酸マスター!!!
アミノ酸の化学
アミノ酸の構造
はじめに、アミノ酸の一般的構造を以下に示します。
以上のように、アミノ酸の骨格は2官能性です。すなわち、標準的に2つの官能基を備えているということです。
まず、カルボン酸の部分に着目します。
こちらは、有機化学ではカルボキシル基と呼ばれており、有機化学における多くの反応に関与する重要な官能基となってきます。カルボキシル基は、プロトン (水素イオン) 解離性を示すことから酸性です。
続いて、アミンの部分に着目します。
こちらは、有機化学ではアミノ基と呼ばれており、有機化学において重要な官能基です。アミノ基は、供与可能な孤立電子対を有していることから、塩基性を示します。
このように、分子内に酸と塩基を有するアミノ酸。もちろんpHによっては
をすることで、1分子に正電荷と負電荷の部分が共存することになります。
このようなイオンを、双性イオンと呼びます。
また、アミノ酸が双性イオンになり、分子全体としては電気的に中性になるようなpHのことを、等電点と呼びます。等電点はアミノ酸固有の値を示すので、電気的にアミノ酸を分離するのに利用されたりします。
R-とは側鎖の省略記号であり、残りの部分 (Rest) を意味します。
アミノ酸の多様性はここから生まれてきます。
グリシンを除き、アミノ酸には立体中心が存在するのでキラルな分子となります。
ここでキラルな分子とは、実像と鏡像が重なりあわない構造を有する分子で、
- 偏光面を回転させる
- 左円偏光と右円偏光に対して異なる吸収を示す(円偏光二色性)
等の光学活性を有します。タンパク質を構成するアミノ酸はすべてL体という絶対配置をとります。
アミノ酸の反応性
続いてアミノ酸の反応性についてです。
基本的に、アミノ酸の化学は前節で示した、カルボキシル基とアミノ基に依存します。例えば、以下のような反応を引き起こします。
特に、1. 求核アシル置換反応は、体内では酵素反応によって実現され、ここからタンパク質が生成します。1. の反応を人工的に起こす場合には、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)に代表される縮合剤と呼ばれる反応剤の助けを借ります。
続いて、本題の各種アミノ酸の解説に移ります。
アミノ酸大全
序章
アミノ酸は前述の通り、カルボキシル基とアミノ基を置換基として有する炭素を骨格に有します。よってアミノ酸間の構造的な違いは、いずれも側鎖に由来することになります。すべて似たり寄ったり、ということです。
よって、今から出てくるアミノ酸全20種類を丸暗記するような力業ではなくて、一つのアミノ酸を記憶してから、その構造と対応付けるように別のアミノ酸を覚えていくことをお勧めします。
続いて、本ブログにて紹介する物性値を以下に示します。
前情報として、おすすめの必須アミノ酸記憶法を紹介します。
トロリーバスフメイ
です。
が、対応するアミノ酸です。これらは体内にて合成ができないので、外部から摂取する必要があるアミノ酸です。
それでは、早速グリシンから入りましょう!!
グリシン
- Mw: 75.07 g/mol 1)
- pKa: 2.34, 9.60 2)
- logP: -3.21 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 唯一アキラルなアミノ酸,
アラニン
- Mw: 89.09 g/mol 1)
- pKa: 2.34, 9.69 2)
- logP: -2.85 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 他のアミノ酸を覚える原点。
バリン
- Mw: 117.15 g/mol 1)
- pKa: 2.32, 9.62 2)
- logP: -2.26 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 立体中心に対してイソプロピル基が結合したアミノ酸。
ロイシン
イソロイシン
- Mw: 131.17 g/mol 1)
- pKa: 2.36, 9.68 2)
- logP: -1.72 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), ロイシンの構造異性体。バリンのイソプロピル基にメチル基が置換したとも解釈できる。
フェニルアラニン
- Mw: 165.19 g/mol 1)
- pKa: 2.16, 9.18 2)
- logP: -1.38 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 紫外線を吸収する 2), アラニンに対してベンゼン環が置換したアミノ酸。
メチオニン
- Mw: 149.21 g/mol 1)
- pKa: 2.34, 9.69 2)
- logP: -1.87 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 含硫黄アミノ酸, スルフィド。
プロリン
- Mw: 115.13 g/mol 1)
- pKa: 1.99, 10.60 2)
- logP: -2.54 1)
- 備考: 無極性側鎖 2), 名前がかわいい。ヘテロ環を形成。ニンヒドリン反応における反応性が他のアミノ酸とは異なる。
セリン
トレオニン(スレオニン)
- Mw: 119.12 g/mol 1)
- pKa: 2.63, 9.10 2)
- logP: -2.94 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2), セリンのヒドロキシル置換メチル基に対して, さらにメチル基が置換したアミノ酸。
チロシン
- Mw: 181.19 g/mol 1)
- pKa: 2.20, 9.11, 10.07 2)
- logP: -2.26 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2) , 紫外線を吸収する 2), アラニンにフェノール基が置換したアミノ酸。
アスパラギン
- Mw: 132.12 g/mol 1)
- pKa: 2.02, 8.84 2)
- logP: -3.82 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2), アミド結合がタンパク質中での水素結合に関与 2)。アスパラガスに豊富に含まれる。
グルタミン
- Mw: 146.14 g/mol 1)
- pKa: 2.17, 8.84 2)
- logP: -3.64 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2), アミド結合がタンパク質中での水素結合に関与 2), アスパラギン酸の炭素鎖が一炭素分だけ長い。
トリプトファン
- Mw: 204.22 g/mol 1)
- pKa: 2.38, 9.39 2)
- logP: -1.06 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2), 紫外線を吸収する 2), アラニンのメチル基にインドール基が置換したアミノ酸。
システイン
- Mw: 121.16 g/mol 1)
- pKa: 1.92, 10.46, 8.35 2)
- logP: -2.49 1)
- 備考: 極性側鎖, 中性 2), 含硫黄アミノ酸, 繊維状タンパク質であるケラチンの構成成分, セリンのヒドロキシル基酸素が硫黄置換されたアミノ酸。
アスパラギン酸
- Mw: 133.1 g/mol 1)
- pKa: 2.09, 9.82, 3.86 2)
- logP: -3.89 1)
- 備考: 極性側鎖, 酸性 2), アスパラギンのアミドがカルボン酸になったもの。
グルタミン酸
- Mw: 147.13 g/mol 1)
- pKa: 2.19, 9.67, 4.25 2)
- logP: -3.69 1)
- 備考: 極性側鎖, 酸性 2), グルタミンのアミドがカルボン酸になったもの。
リシン
- Mw: 146.19 g/mol 1)
- pKa: 2.18, 8.95, 10.79 2)
- logP: -3.05 1)
- 備考: 極性側鎖, 塩基性 2), 生理的pHで常に正電荷を帯びるε-アミノ基 2)。
アルギニン
- Mw: 174.2 g/mol 1)
- pKa: 2.17, 9.04, 12.48 2)
- logP: -4.20 1)
- 備考: 極性側鎖, 塩基性 2), 生理的pHで常に正電荷を帯びるグアノジノ基 2), かっこいい。エナジードリンクによく見かけるやつ。
ヒスチジン
- Mw: 155.15 g/mol 1)
- pKa: 1.82, 9.17, 6.04 2)
- logP: -3.32 1)
- 備考: 極性側鎖, 塩基性 2), 周辺pHに応じてプロトン結合, 解離を引き起こすイミダゾール基を有する2), 代謝の活性中心にいたりする。
おわりに
アミノ酸世界への旅はいかがでしたか?
第一印象として感じるのは、
- 複雑だなあ
- 多いなあ
ということだと思います。ただ、我々を構成する多種多様なタンパク質が、たった20種類の元から成っていると考えると、むしろ少ないと思いませんか?
毎日、彼ら/彼女らと触れ合ううちに、やがて親近感が湧いてきます。
友情とは、愛情とは、そういうものです。
最後に、今回の記事でアミノ酸の二次元構造式を描画したソフトの紹介をします。
重宝するツールです。ぜひ皆様もご活用ください。
以上、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) PubChem, Access: 20200906, 20200907.
2) 大山隆ら (2016), ベーシックマスター生化学 第1版 第7刷, 第2章 アミノ酸とタンパク質, 31-34.