本日も、りけいのりからお届けします。
今回は、髪の毛にうねり・動きをつけるために行う、パーマの仕組みについて解説。
パーマも、れっきとした化学反応。サイエンスの力がふんだんに使われています。
本日は、
- 髪の毛はどうやってできているのか
- パーマがかかる仕組みは何か
- パーマ液の種類はどのようなものがあるか
ということについて説明していきます。
髪の毛の構造
まずは、髪の毛を拡大してみてみましょう!!
拡大してみると、髪の毛の表面はざらざらしていますね。
表面の段差も、一様の方向を向いています。
しかし、これでは髪の毛の正体はわかりません。
髪の毛は何でできているのでしょうか。
答えはタンパク質です。
タンパク質とは、アミノ酸と呼ばれる構造単位が連なることにより生じる巨大分子を指します。タンパク質は、ヒトを含めた生物をはじめ、ウイルスなどをも構成しています。以下は、新型コロナウイルス中に同定されたタンパク質です。
巨大分子であるが故に、タンパク質の構造はその形状の特徴を反映させたリボンモデルにより表現されることが多いです。他にも、タンパク質を構成する原子をありのままに描画した空間充填モデルなどが存在します。
では、髪の毛を構成するタンパク質とはいったいどのようなものでしょうか。
答えは、ケラチンです。
人によって髪質に違いがあるように、ケラチンの確定した化学構造を求めることはできません。タンパク質の二次構造はαヘリックス構造であることが分かっています。
二次構造とは、アミノ酸の直線分子が空間的にどのような形状であるかを示します。
例としてそろばんを考えると、玉一つ一つがアミノ酸であるとすると、玉がつながった全体の構造は直線です。この直線構造を、玉の構造に次ぐ構造、すなわち二次構造と呼んでいるのです。
αヘリックス構造とは、ばねのような構造であり、水素結合によって形成されます。
私たちの髪の毛は、このようなクルクルとした構造により構成されています。
直毛の人でも、くせっ毛の人でも、関係ありません。
ここで、ケラチンを構成するシステインに話を戻します。
システインは、含硫黄アミノ酸であり、髪の毛の剛直な性質に影響を与えています。
髪の毛を燃やすと、嫌な臭いが生じるのは、この硫黄によるためです。
ケラチンは、爪や角質にも重要なタンパク質です。
髪と爪は、丈夫である点を除きあまり似ていませんが、この硬さの違いはシステインの含有量と硫黄結合によります3)。
そして、硫黄結合こそがパーマをかけるために必要なのです。
パーマのかかる仕組み
ケラチンにはシステインが比較的多量に含まれていることはすでに述べました。
ジスルフィド結合
と呼ばれる結合を生成します。"ジ"とは2つ、"スルフィド"とは硫黄のことを示します。
例えば、硫黄結合の生成と解離により、ケラチンは以下のような構造的変化をします。
化学を少し学んだことのある方には、酸化反応と還元反応という表現が分かりやすいかもしれません。分子構造を決定する結合としては、他に水素結合やイオン結合なども挙げられますが、共有結合性のジスルフィド結合はその中でも強固です。
つまり、髪の毛を任意の形状にしたいのであれば、
- 還元反応を行ってジスルフィド結合の開裂
- 髪の毛を任意の形状に固定化
- 酸化反応を行ってジスルフィド結合の生成
という手順を踏めば良いことになります。
そこで、パーマ液の呼称として
- 還元反応を行う還元剤を一剤
- 酸化反応を行う酸化剤を二剤
と呼びます6)。
一剤と二剤には、それぞれ次のような薬品が用いられます6)。
このように、パーマとは髪の毛に対して行う化学反応です。
よって、キューティクルが痛んだり、タンパク質が損傷するなどパーマにより髪の毛はダメージを受けます。
オシャレは大変なものですね。
おわりに
今回の記事では、パーマがかかる仕組みについて紹介いたしました。
"美容院で行われる頭上の化学"といっても良いかもしれません。
ちなみに、ケラチンのαヘリックス構造を形作る水素結合については、別の記事に掲載しているので、是非ご覧ください。
りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) ミクロの世界~シーナ、へこむ~、髪の毛の電顕写真を引用, Access: 20200905.
2) Dene R. Littler, Benjamin S. Gully, Rhys N. Colson, Jamie Rossjohn (2020), Crystal Structure of the SARS-CoV-2 Non-structural Protein 9, Nsp9, iScience, 23, 7, 101258,
https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101258.
3) Theodore Gray(著), Nick Mann(写真), 若林史高(監修), 武井摩利(訳) (2015), 世界で一番美しい分子図鑑, 株式会社創元社, 122-126.
4) D.D. Georgiev, J.F. Glazebrook (2019), On the quantum dynamics of Davydov solitons in protein α-helices, Physica A: Statistical Mechanics and its Applications, 517, 257-269.
5) PubChem, Access: 20200905.
6) ケミカル講座 vol.1「パーマのしくみ・基礎知識(1)」, Access: 20200905.
7) PubChem, Access: 20200905.