本日も、りけいのりからお届けします。
本日は、少しセンシティブな内容について扱います。
ですので、あらかじめここでお断りします。
本記事は、人種差別やそれに類する行為を肯定するものではありません。
あくまでも、肌の色をサイエンスの観点から考えてみます。
よくよく考えたら不思議ですよね。
- 同じホモサピエンスなのに、肌の色が遺伝的に異なります。
- 日サロに行って一時的に肌の色を変えることもできます。
- そして、色と人間の心理は密接に結びついており、時として大きな社会問題を引き起こします。
さあ、サイエンスの色眼鏡で、肌を覗いてみましょう。
肌の色の由来
肌の構成
肌の色の科学は非常に複雑です。
肌といっても、
- 表皮
- 真皮層
- 皮下組織
と、肌表面から体内にかけて、ミルフィーユのような構造をとっています。さらに、この層状構造中に、
- 血管: 毛細血管、動脈、静脈
- 汗腺や汗孔
- 毛球や毛根
などなど、様々な要素が存在します1)。特に、体調と毛細血管の拡縮には深い関係があるので、結果として現れる血色が肌色にも大きな影響を与えます。
色素の正体と代謝による合成
それでは、肌色を決定する色素とは、どのようなものでしょうか。
一般的に、
- メラニン色素: 表皮中
- ヘモグロビン色素: 血液中
が肌色を決定すると言われています2)。
今回の記事では、遺伝的要因により大きく量が変動する、メラニン色素に着目します。
メラニン色素は、化学的には次のような構造をとります3)。
なんだか、複雑そう...という印象を受けますね。
ただ、化学構造は、構造中の特徴を捉えることで、その性質を議論することができます。つまり、すべての原子に着目する必要が無い、ということです。
今回注目したいのは、
単結合 : 原子間を結ぶ一本の棒で表現されている
と
二重結合: 原子間を結ぶ二本の棒で表現されている
が交互に繰り返される構造です。
このように、単結合と二重結合が交互に繰り返されるような構造系を
共役系 (またはπ共役系)
といいます。色素には、必ずこの構造が含まれていていて、この構造の大小が色素の性質を決定する要因となっています。
メラニンには、ユーメラニンとフェオメラニンが存在しており、それぞれ異なる色を示します。これらメラニンが肌に多く含まれると、肌の色は濃くなるということです。
メラニンは、メラノソームと呼ばれる部位にて生産されます。
人種によって肌色が異なるのは、このメラノソームの数と大きさが異なるためです4)。
科学的に肌の色は、メラニンを生産するメラノソームの数と大きさにより変化する。
これは大事な事実です。
肌の色の本質的な違いは、たったこれだけの事なのです。
肌の色が、人間の性格や気質を反映するようなことはありません。
肌の色とアフリカ起源説
肌の色が異なる原理については述べました。
それでは、肌の色が国や地域によって異なるのはなぜでしょうか。
ここでは、人類のアフリカ起源説を前提としてお話します。
1つの仮説としては、主に緯度と日照量が関係していると考えられています5)。
日照は、人体におけるビタミンDの生成と深く関係しています。
ビタミンDの構造は冒頭の画像にて示しました。
ビタミンDの欠乏は、骨の変形が生じるくる病を引き起こし、生体に必要不可欠な栄養素です。このビタミンDは、コレステロールと紫外線の光化学反応によって、皮膚において生成されます5)。
日照由来の紫外線がビタミンDを生成する
一方、紫外線は、可視光と比較して高エネルギーであり、過剰量の曝露は有害です。例えば、ビタミンB群の1つである葉酸は紫外線を強く吸収します。
日照由来の紫外線が葉酸(ビタミンB群)を破壊する
葉酸は、食物から摂取する必要があり、妊婦の方は意図的な摂取が必要な栄養素です。
そうです。
日照は、人体に良くも悪くも働く曲者なのです。
そして、ここでメラニンの量、すなわち肌色の濃さが登場します。
肌色が濃いと、皮下への紫外線が吸収されることで...
されます。
日照量の多い低緯度地域では、紫外線量も多くなります。
この時、新たな生命の誕生と成育に必須である葉酸の保護をするヒトが、優先的に反映できます。すなわち、肌色の濃いヒトが繁殖に有利となります。
日照量の少ない低緯度地域では、紫外線量は少なくなります。
この時、肌色の濃いヒトが北上あるいは南下したとすると、保持するメラニン色素が多いために、十分なビタミンDの生成を行うことができません。
つまり、緯度が大きくなるほど、肌色の薄いヒトが繁殖に有利となります。
このように、環境要因による淘汰が起こることで、人の肌色は多様になったのです。
おわりに
今回の記事では、肌色と代謝についてのお話をしました。
ということで、早速、自分の肌を眺めてみましょう。
葉酸が分解され、ビタミンDの生成される化学反応が見えてきましたか?
参考文献
1) 鉅鹿 明弘 (2011), 肌色, テレビジョン, 1967, 21(8), 534-540, https://doi.org/10.3169/itej1954.21.534.
2) 津村 徳道 (2007), 画像計測に基づく肌の解析と質感の合成, オレオサイエンス, 7(7), 267-272, https://doi.org/10.5650/oleoscience.7.267.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/7/7/7_267/_article/download/-char/ja
3) PubChem, Melanin, Access: 20200904.
4) 清水宏 (2018), あたらしい皮膚科学 第三版, 中山書店, B.表皮, 9-11.
https://www.derm-hokudai.jp/jp/shinryo/pdf/1-04.pdf
5) K.P. Vollhardt, N.E. Schore (2013), ORGANIC CHEMICSTRY Structure and Function 6th ed., 第4刷, 25章 ヘテロ環化合物-ヘテロ原子を含む環状有機化合物, ハイライト25-3.