本日も、りけいのりがお届けします。
今回のテーマは、PCR検査について。対象読者は、
という方です。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、PCR検査という言葉が広く認知されました。技術としては、数十年前に確立していたDNA複製の手法ですが、昨今の状況においては重要性を増しております。
そんな、PCR検査について、昨日の自分より詳しくなりましょう!!
PCRとは何か
まずは言葉の確認
初めに、PCRの意味についてです。
PCRとは、すなわち反応です。
英語を日本語に直訳すると、ポリメラーゼ連鎖反応です。それぞれの用語を確認すると、こんな感じになります。
- ポリメラーゼ: 重合酵素のこと。
- 連鎖反応: 開始されると、連続的に進行する反応。
ポリメラーゼは、言葉を分解するとわかりやすいです。まず、ポリメラーゼはポリマーとアーゼという言葉に分解が可能です。
ポリマーとは、繰り返し単位が反応することで生成する巨大な分子のことを指し、高分子とも呼ばれます。ここで、繰り返し単位のことをモノマーと言ったりします。
- ポリ: poly: 多 例:ポリゴン(多角形)
- モノ: mono: 一 例:モノクロ(monochromaic: 単色)
化学構造を変化させることで、容易に物性を変化させられる点から、身の回りに多く存在します。例えば、単量体の種類や比率を変えることで、様々な材料を得られます。
- ナイロンやPET、テフロンなどの材料。
- 瞬間接着剤の接着時における反応はポリマーの生成反応。
※そして、実は私たちを構成するタンパク質やDNAも高分子だったりします。
続いて、アーゼ(ase)についてです。この接尾辞は、その単語が酵素名であることを示します。例えば、
- カタラーゼ
- リパーゼ
- アミラーゼ
- ポリメラーゼ
- トランスフェラーゼ
- ヘキソキナーゼ
などなど、ことごとくアーゼですね。中には、中学校や高校で聞いたことのあるものも含まれているのではないでしょうか。
酵素は、代謝(生体内で行われる化学反応)を促進する重要な役割を果たします。我々の体が俊敏に動けるのは、まさしく酵素のおかげなのです。
さて、ポリメラーゼに話を戻します。
今までの話をまとめると、高分子にかかわる酵素であることが分かります。
特に、今回お話するDNAポリメラーゼは、DNAをモノマー(ヌクレオチド)から生成する際の反応を促進します。
役者はそろいました。それではPCR法の原理、つまり連鎖反応について説明します。
PCR法の原理
非常にざっくり言うと、PCR法に用いられる機械は温度の上げ下げを行います。単純です。使用する機械の名前は、サーマルサイクラー。そのまんまですね。
それでは温度の上げ下げにより、何故DNAが合成されるのでしょうか。
以下、PCR法の図説です。
DNAは、塩基と呼ばれる構造を含み、この並び(塩基配列)こそが生命情報を支配しています。塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、チミンからなり、アデニンはチミン、グアニンはシトシンとのみ相互作用を形成して安定化します。
それによって生じた構造こそが、DNAの二重らせん構造です。2つのらせんが交わるように重なっているから、二重らせん構造です。
これらは強い結合で結ばれていないので(水素結合という、静電気的な力に由来)、加熱することで容易にほどけ、一本鎖のDNAになります。そこへ、プライマーと呼ばれるDNAの一部分と結合性を示す配列を大過剰量共存させ、50℃まで徐冷することで、DNA同士ではなく、むしろプライマーとDNAで結合します。
そこで、先ほどのDNAポリメラーゼと材料となるヌクレオチド、そしてマグネシウムイオンなどを共存させることで、DNAの複製が完了します。
この反応により、ごく少量のDNAサンプルでも確実に増やすことができます。
新型コロナウイルスの検出に利用されるわけ
それでは、このPCR法を使ったウイルスの検出についてです。
新型コロナウイルスの感染者である場合、新型コロナウイルスは唾液、鼻水、喀痰などの上気道の分泌物などに多く含まれることが分かっています2)。つまり、そこから粘膜などを一部サンプリングして、PCR法によりウイルスの痕跡を探します。
この時、新型コロナウイルスに限らず、ウイルスは1本鎖RNAを有していることが多いため、前述のPCR法の直接利用はできません。そこで、RT-PCR法と呼ばれる方法が使われます3)。
このように、研究開発の現場で用いられてきたPCR法が、世の中に大きく貢献しています。
おわりに
いかがでしたか?
PCR法は、温度を周期的に変化させることで、DNAポリメラーゼを利用してDNAを複製する方法です。今回の記事を通して、理解が深まれば幸いです。
DNAの水素結合性に関してまとめた記事もあるので、是非合わせてご覧ください!!
本日も、りけいのりがお届けしました。
参考文献
1) J.E. McMURRY, E.E. Simanek (2007), Fundamentals of ORGANIC CHEMISTRY 6th edition, 化学余話 甘味, 483. 訳) 伊藤椒, 児玉三明.
2) 峰宗太郎, どんなウイルスで、どのように感染するのか? 新型コロナウイルスのそもそも論, 2020.04.21, Access: 20200912.
3) 石原藤樹, 新型コロナウイルスのPCR検査・抗体検査・抗原検査、有効性と限界は?【医師によるコラム】, 2020.06.11, Access: 20200912.