本日も、りけいのりからお届けします。
高校化学で何気なく登場する、結合様式。
本日のテーマは、水素結合です。
水素結合は、化学のみならず、物理学や生物学にとっても重要なんです。
まずは、水素結合の本性を暴き、続いて他分野での水素結合の役割を見ていきましょう。
水素結合とは
まず、水素結合のざっくりとした解釈はこんな感じ。
- 水素を仲立ちとした分子間の結合→分子間力の一種
- 静電気的な引力に起因するので、空間的な隔たりが多少あってもOK
- 分子間力の中では強い部類の結合
と、いきなり、分子間力、静電気的な引力、とか化学に馴染みのない人を追い返すような説明。。。
安心してください。直観的に優しく説明します。
分子とは
まず、分子は原子がつながってできた構造体です。
この分子が、
- 色
- 匂い
- 視覚
- 興奮
などなど、わたしたちの生活を豊かにしてくれています。
いま、あなたの使っているこの電子機器も、そしてあなた自身も大きな分子だったりします。
これら、生活を彩る分子は、それそのものが有用なわけではありません。
化学反応を通して、私たちの生活を彩ってくれるのです。
実は、化学様様です。
学校では、ありきたりで無味乾燥な反応、例えば燃焼とか、還元反応とか、そんなものを習います。でも、それには理由があります。
生活を彩る、目の前の化学反応を理解するには、基礎的な反応をしっかり理解する必要があるためです。だから、つまらないとは思わないで、面白い化学の世界の入り口だと思ってみてください。
きっと、ラボアジェモ喜んでいます。
さてさて、こんな感じで、水素結合の話をしようとしたら、結局分子の話をしています。どうしたものでしょうか。
まーいっか。
分子レベルってどんなよ
ってことで、化学は生活を彩ってくれることはわかりました。
問題は、化学反応が見えないということです。
なぜなら、化学反応の主役がとってもとーーっても小さいから。
見えるはずもないのです。
つい最近、やっと原子とか、原子の運動などが特殊な分析技術により見える化され始めました。つまり、それ以前は、そこに分子があるかどうかすらもわからなかった。
ただ、分子や原子という存在を仮定すると、説明のうまくいくことが多くある。
ということでしかありませんでした。
じゃー、分子ってどれくらい小さいの?
典型的な分子は、数~数十Å ( オングストローム) 程度の大きさです。
へぇーー...
オングストロームってなに? って方のために。
オングストロームとは10のマイナス10乗mを意味する単位です。
1メートルの100億分の1ってことです。
人一人が原子の大きさ(1Åとする)だとして、全人類が整列しても、
まだ一メートルには達しません。
それだけえげつなく小さい世界を探求するのが化学です。
そんな小さい世界では、常日頃、分子や原子がせめぎあっています。
渋谷のスクランブル交差点って感じ。
渋谷のスクランブル交差点には、かっこいい人、きれいな人、臭い人、大きい人、小さい人、いろいろいます。
分子もいろいろいます。
- 人が、似たもの同士で集まるように、分子にも似たもの同士で集まる性質があります。
- 自分にないものを持つ人に惹かれるように、自分とは異なる電荷をもつ分子は惹かれあいます。
こんなに近くにいるんだから、お互いが相互作用するっしょ!!
それが、分子間相互作用。
そして、惹かれあうやつら同士の相互作用を
分子間力(引力)
と呼んだりするのです。今回の水素結合も、その中の一つです。
水素結合に迫る
ここで、分子同士が惹かれあうのはどうしてか。
それは、物理学によって説明される引力が存在しているから。
特に、電荷を有する粒子間に働く力を
と呼びます。
クーロンとは、人の名前です。
クーロンさんが偉いから、そういう名前になったのです。
さて、引力が働く条件としては、
それぞれの分子が互いに異なる電荷を有している
ことが条件になります。
片方がプラスなら、片方はマイナス、って具合です。
因みに、クーロン力は距離の二乗に反比例します。
つまり、少し遠くなると急激にクーロン力が弱くなったりします。
特に、水素結合では、
- 仲立ちとなる水素原子がプラス
- 電気的に陰性な原子がマイナス
となることで、引力が発生します。
ここでまたまた出てきました。
電気的に陰性? どういう意味だ??
次節で説明します。
電気的に陰性って?
特徴は次の通りです。
- 陰キャ: ため込みがち。受け止めて考えがち。
- 陽キャ: ストレスは発散するもの。どんどん口から体から、放出。
- 陰性原子: 電子をため込みがち。電子を受け止めがち。
- 陽性原子: 電子を放出しやすい。電子はため込まない。
ちかからず、遠からず。
我ながら、良いたとえだと思ってます。
因みに私は、どちらでもないです。中性なので、中キャです。
この、電子の受け止めやすさは、しっかりと先人が定量化(数字で表すこと)をしてくれています。典型的なのが、
- ポーリングの電気陰性度
- マリケンの電気陰性度
- オールレッド・ロコウの電気陰性度
です。いずれも、定義が異なるものの、本質的には同じことを意味しています。
高校の教科書では、ポーリングの電気陰性度が主流でしょうか?
ここで、ポーリング基準の電気陰性度の例を挙げてみましょう1)。
- 水素: 2.20
- 酸素: 3.44
- 窒素: 3.04
と、水素と比較して酸素や窒素の電気陰性度が大きいことがわかります。
電気陰性度は、電気的陰性の大きさを示すため、相対的に、
- 酸素や窒素は水素と比較して、電子を受け取りやすい
ことを示しています。
電子を受け入れやすいと、自身がマイナス(負電荷)に帯電します。
これにより、水素と酸素、水素と窒素間などで、水素結合が生じるのです。
ここで、水素、酸素、窒素は部分電荷と呼ばれる形式でしっかりと帯電しています。
電荷ほどはっきりしていませんが、 誘起双極子(また別の記事で紹介します)よりははっきりした電荷です。
ここで、一番最初に紹介した、水素結合の性質をおさらいします。
- 水素を仲立ちとした分子間の結合→分子間力の一種
- 静電気的な引力に起因するので、空間的な隔たりが多少あってもOK
- 分子間力の中では強い部類の結合
この三点をしっかり押さえれば、水素結合はひとまず理解できたことになるでしょう。
次回の記事では、
各分野での、生きた水素結合を見ていきます。
お楽しみに―!
参考文献
1) P. Atkins et al., 2013, Elements of Physical Chemistry 6th ed., 14.11, 訳: 千原秀昭, 稲葉章